普段は家のことなどまったく気にかけない夫なのですが、いざ離婚となると、急に人が変わったように家庭内に対して敏感になります。
よく、男性は「課題解決型の脳」をもっているなどと言われます。それが事実かどうかはわかりませんが、彼らがいつも会社でしているのは、まさに課題の解決です。離婚という具体的な形を取って現れた問題については、考える能力があるのです。
そのため、あなたが離婚戦争の狼煙をあげると、男達は迅速に立て直しを図ります。
こんなに頭が働くなら、普段から家の中でも働けといいたくなるくらいです。要するに、知恵はなくても悪知恵なら働くのです。
彼らは彼らなりに考えて、あなたを追い詰めようとしてきます。その手口は十人十色で、そうそう網羅できるものもありませんし、あなたの立たされている状況にも左右されますので、これだけ考えておけばいい、というような説明の仕方はできません。ただ、一例としてよくあるパターンを、ここに列挙しておきます。
兵糧攻め
まず、多くの夫が選択する作戦は、「兵糧攻め」です。
これは、特に妻の側の収入が少ない場合に、そこに付け込む作戦です。
あなたに限らず、人は誰でも、毎日食べなくては生きていけません。住居も必要ですし、衣服もなしでは済みません。そのすべてにお金がかかってきます。
現代日本の夫達の「拒否権(VETO)」にも相当するものが、この収入の入り口という役割です。どうしても女性は妊娠・出産を通して収入が激減する時期があり、キャリアも中断するため、どう頑張っても一時的に夫の扶養に入るしかない場面があります。その弱みにつけこむという、卑劣ですが効果的な手段を用いてくるのです。
よく、計画をたてずに感情のままに離婚を要求して、そのまま勢いで家を飛び出してしまう女性もいるのですが、そういう妻には、この作戦が覿面に効いてきます。急に家を飛び出すので、手持ちの現金とクレジットカードくらいしか支払い手段がなく、カードのほうは限度額もあります。銀行のキャッシュカードとしての機能もコミになっているものもありますが、もしそれがあなた個人の口座でなく、夫婦の共同口座のものだったとしたら、夫は簡単にその利用を差し止めることができます。
すると、女性の側では、限られた資金の中から行動を選ばざるを得なくなるのです。手持ちには、せいぜい数万円しかない……となると、もうできることは、子供を連れて九州の実家に転がり込むくらいしかないのです。じっくり作戦を考える余裕もありません。東京でどこかのホテルに一日宿泊するだけでも、数千円が飛んでいくのですから。
実家に撤退しても、そこでアパートを借りるなどの支援を受けられると期待するのは、難しいです。予期しない急な離婚に、親がポンと何十万円もの支援をしてくれるでしょうか? 困窮している娘のことですから、家に留まるくらいは許してくれるかもしれませんが、それだってだんだんと肩身が狭くなっていきます。
しかも、それだって実家があればこそなのです。もし実家との関係が険悪な場合には、もう友達に泣きつくしかありません。しかし、友達も一泊くらいはさせてくれるでしょうが、何ヶ月もの滞在をお願いするのは無理があります。
この作戦に抗うのはほぼ不可能です。衣食住が絶たれた状況にあっては、本当の戦争に参加する兵士でさえ、敵軍に投降するものです。
但し、それは事前の準備がなく、法律の知識もない場合に限ってのことです。
家から飛び出したとはいえ、あなたは依然、夫の妻です。
婚姻関係にある以上、「婚姻費用の請求」が可能です。これによって、最低限の生活資金を手に入れましょう。夫も抵抗するでしょうが、法的拘束力のある取り決めには逆らえません。
しかし婚姻費用は、離婚すれば当然になくなります。
あなたに何か収入源となるスキルなどがない限り、結局は離婚後もこの問題は付き纏います。だから、目先の資金を得たところで、あなたは常に不安に取り囲まれることになるのです。
そうした問題がありそうだ、と自分で感じている方は、こちらもご確認ください。
この変化形として「離婚の申し出を聞いた瞬間に退職する」という荒業があります。
無収入だから婚姻費用は払えない、財産がいくらあるかは情報開示しない、というわけです。これでは取れるものがないので、女性の側もかなり苦しむことになります。偶発的に離婚を始めてしまうと、こういった対策をとられてしまうので、とても苦しい局面が待っているのです。
この「肉を斬らせて骨を絶つ」的な作戦に対抗するには、ひとえに事前調査にかかっています。夫の収入がいくらあったのか、事前に情報を把握しておくのです。そうすれば、彼が留保している資金のうち、いくらかはあなたに配分されるでしょう。それに働いて収入を家庭にもたらすのも夫婦の義務ですし、夫といえども飲まず食わずでは生きていけません。
同様に「俺の財産ゼロ」作戦というものもあります。
所有する不動産などの名義を別人に移し変えるなどして、財産分与しようにも、何も持っていないように見せかけようというのです。
もちろん、夫が結婚前から所有していた財産であれば、基本的にはどう処分しようと彼の自由なのですが、夫婦の共同財産であっても彼の名義になっているものについては、勝手なことをされては困ります。
もし心当たりがある場合には、こちらから先に手を打っておく必要があります。
家庭裁判所に財産分与や慰謝料を請求する調停・審判の申し立てをした上で、財産の処分禁止を求める「審判前の保全処分」を申し立てます。この際、緊急性、必要性について証明できなければいけません。
これが通れば、裁判所の法的拘束力をもって財産の勝手な処分を防止できます。
或いは、地方裁判所に「民事保全」の申し立てをするという方法もあります。
但し申し立てをするには、
1.申し立てを行える権利者であること
2.法的な離婚の原因があること
3.保全手続きが必要な客観的な理由があり、説明できること
が要求されます。
更に保証金も必要です。不動産など、財産の評価額が大きいものについては保証金も高額になります。申し立てが可能かどうかの判断もあり、手続きも煩雑なので、こうしたケースでは弁護士などの専門家に相談したほうがいいでしょう。
人質作戦
他にも作戦はあります。
子供を人質にとるのです。
あなたは子供と暮らしたいと願っているかもしれませんが、であれば尚更、夫は子供を引き取ろうとします。
「お前は出て行っても構わない。だが、この子はうちの跡取りだ。置いていけ」
というわけです。
いったんこうなると、なかなかに難しいです。夫は、あなたが子供を捨ててはいけないことを知っています。
「誰が面倒を見るのよ? あなたにできるの?」
「俺は昼間、仕事だから難しいが、俺のオフクロがいるから問題ない」
こんな感じです。
非常に厄介ですね。夫には子供を養うだけの収入があり、しかも世話役に無給のシッターさんである姑もいる。そして、もしあなたが本当に子供を置いて家から脱出した場合、親権を取るのが格段に難しくなってしまうのです。
これは他のところでもっと詳しく説明しますが、裁判所は現況を優先します。子供が特に幼い場合は母親の存在を重視しますが、現況において子供の養育に問題なしと判断された場合、環境を変えない判断を下すことが多いのです。
かといって、あなたが子供を強引に奪い取って家から脱出するなんて、さすがに非現実的です。腕力に訴えても、普通では男に勝てるはずもありません。
子供を差し押さえられないようにするためには、先に子供を確保してから交渉することです。
ここでもやはり、事前準備の重要さが浮き彫りになってきますね。
勝手は許さん!(拳)
それから、これは決して許されることではないのですが……
一番恐ろしいのが、「実力行使」です。
離婚したい、あなたは夫としてまったく不適格だ、これこれこういう問題がある、と非難した時、相手は強い精神的ダメージを受けます。
精神年齢の高い、成熟した人であれば、批判も落ち着いて受け止めることができるものですが、それができるような夫なら、そもそもあなたが離婚を考える必要などないはずです。だから、この場合の夫は、激しい怒りを感じる可能性が高いです。
問題は、その怒りをどう処理するかです。あなたを怒鳴りつけるだけで済めば御の字ですが、下手をするとチンパンジーの如くに暴れだす男もいるのです。
「離婚だと! 俺に何の問題があるってんだ! このアマ、付け上がりやがって!」
半狂乱になって殴りかかってきたら、大変です。
あなたが吉田沙○里とか、谷亮×なら、それくらい軽くいなせるのでしょうが、普通はそんなことないと思います。男の暴力がどれほど恐ろしいかは、別の記事にまとめたので、そちらをご覧いただくとして、
対策としては、やはり「暴れさせない」ということが重要になってきます。
家庭内は閉鎖空間です。あなたと夫しかいない場所では、何の安全装置も働きません。家の中は密室なので、中でどんな暴力が繰り広げられようとも、普通は誰も気付いてくれないのです。
このため、離婚を申し出る際には、誰かに同行してもらうということが非常に有効です。特に弁護士を連れていくと、心理的圧迫感も並大抵ではなくなります。但し、その分、夫は自分の発言について慎重になる可能性があります。夫にとって不利な約束をさせたい場合には、これがマイナスになる場合もあるので、そこは妥協してください。
ただ、世の中には、それでも暴れだす狂暴な人も、稀にですが、います。もしあなたの夫がそういう振る舞いに出る可能性のある人物だとわかっているのであれば、話をする場所は、家の外にしましょう。同行する弁護士なども、なるべく男性を連れていくようにします。法律があろうがなかろうが、その場で殺されてしまっては、元も子もありません。
こういった反撃は、とにかく「させない」「思いつく余裕を与えない」ことが大切です。
また、そうした問題が起きるからこそ、蓮沼式離婚メソッドにおいては、突発的な、準備不足の離婚を絶対に避けるようにと指導しているのです。
協議離婚を早期に決定して、迅速に終わらせることの重要性を再認識してください。長引けば、調停や裁判にもつれ込み、どんどん消耗していくことになります。また、格段に有利な条件で離婚を締めくくるのも難しくなります。裁判所は曖昧な証拠や、不公平な財産分与を認めませんから、あなたが著しく不利になった場合のみ、それらの制度を利用できるようにするのが、好ましい展開です。