離婚の準備:収入の問題

離婚の戦略

 さて、離婚中、そして離婚後の収入をどうすべきでしょうか?
 ここでは、長期間の対策について考えるので、一時的な軍資金については考慮しません。例えば、離婚裁判が一年に渡って続いたとしても、その間はヘソクリでやりくりできるかもしれません。しかし、その貯金が尽きた後は、やはりあなたが何らかの手段でお金を稼ぎ出していかなくてはならないのです。

 しかし、短期的な資金調達と違って(それだって簡単ではないですが)、こちらはなかなかに難問です。
 これが誰にでも簡単に解決できる問題なら、そもそも誰も離婚に際して悩みません。

 かつては、この経済問題こそが、男にとっての家庭の安全弁だったのです。

「誰のおかげでメシが食えると思ってんだ!」

 この亭主関白なフレーズ、知らない人はいないでしょう。
 日本においては、女性が家庭の主導権を握っています。家の文化を作るのは主婦で、財布の紐を握るのも妻です。もし離婚時に子供が十歳未満なら、余程の事情がない限り、ほぼ自動的に母親が親権をとることができます。
 そんな女性に男達が唯一対抗する命綱として握っていたのが「お金」であり、その源泉である「仕事」でした。しかし、いまや女性の社会進出も進んでおり、男の価値は大暴落中です。

 と言いながら、結婚後、出産を経ると、どうしても一時離職が発生し、女性の側の収入が激減します。
 そして正社員での復帰は難しく、生涯収入は大きく損なわれることになるのです。その意味では、まだまだ男側の保険は機能しているといえるでしょう。

 そういう社会の問題点については別途論じるとして、今はこれをどう突破するかが問題です。

 ただ、あなたが既に引退世代の高齢女性である場合は、この問題はぐっと小さくなります。夫に退職金その他の貯蓄があれば、婚姻期間中の収入であれば、その半分は財産分与で手に入りますし、年金も分割されます。
 また、高齢者ということで、もし年金その他をもらってもなお生活が苦しいということであれば、生活保護も比較的申請が通りやすいはずです。
 それから、子供がいれば、その支援を受けるという方法もあります。

無策では派遣・アルバイトしかない

 しかし、現役世代の女性はというと、やはり自力で稼いでいかねばなりません。

 何の対策もなしに当面の仕事先を探す場合、あるのはパート(アルバイト)か派遣契約くらいなものです。
 そこで数年間頑張れば、正社員への格上げも視野に入ります。しかし、不況が二十年も続いたこの日本で、そんな取り決めをおとなしく守る企業など、どれくらいあるでしょうか。現実には、派遣社員の勤務年数が5年に達する前に、いきなり企業側は仕事を切ってきます

 この手のことは、いろんな企業が普通にやっていることです。この私、蓮沼自身の体験でも、似たようなことがありました。
 厚生労働省の関連団体に、情報システムを納入している会社がありました。もちろん、公共事業なので入札制です。新たに入札に競り勝った会社がありまして、私はそこでサポート要員として派遣社員の立場で働いたことがあります。するとどうなったか。
 入札で現場に入ったばかりの状況では、その会社にもノウハウがありません。また、年度の変わり目だったこともあり、厚労省関連の企業からの問い合わせが殺到したため、この時期は非常に多忙でした。しかし、そこを乗り切った直後……

「君が何かミスをしたとか、そういうわけではないんだけどね」

 と肩叩き。
 いきなりのクビです。
 ちなみに最初は一年頼むと言われていたのです。じゃあ、ということでスキル違いの仕事だったけれども請け負ったのです。それが真面目に問題を潰していったら先方に余裕ができて、三ヶ月で放り出されてしまい、いきなり予定が狂って非常に困ったことがありました。

 つまり、かなり運がよくない限り、専業主婦かパートの立場にいるあなたが、いきなり職探しをした場合、私と同じ目に遭う、ということです。

魅力で稼ぐ?

 となれば、他の方法で稼ぐしかありません。
 手っ取り早く大きな金額を手に入れたければ……

 あまり声を大にして言いたくはないのですが(そしてお勧めしているわけでもありません)、女性の場合は夜のお仕事があります。キャバクラからソープランドまで、いろいろです。
 今は風俗不況と言われていて、そういう仕事であっても無条件でいくらでも稼げる、ということはありません。それでも、ただの派遣社員よりはずっと上です。
 少し計算してみましょう。例えばソープランドで仕事をした場合……

 一口にソープといっても、高級店から格安店までいろいろあり、コンパニオンの手取りも一様ではありません。
 ただ、大衆店クラスで考えると、90分3万円くらいが相場です。そこからコンパニオンの取り分はおよそ6~7割程度なので、一度の接客で2万円が手元に残ります。ただ、お茶を挽いたのでもない限り、一日の終わりに備品代など雑費を1万円くらい差っぴかれます。
 いやらしいことをする仕事、というイメージが強いかと思いますが、それだけでなく、結構な肉体労働でもあり、感情労働でもあります。好きでもない男の相手をするのですから、心身ともに消耗するのは当たり前です。
 猛烈に頑張ったとしても2勤1休くらいが限界でしょう。ただ、先に述べたように風俗不況でもあり、実際の経済も不況なので、一日中客がつくなんて幸運は、相当な売れっ子でもない限り、あり得ません。
 それでも、一日3本の客がつけば、手取りはざっと6万円。これで2勤1休なら一ヶ月の収入は百万円を超えます(!)。あとはどうやって節税をするか、ですね。ただ、この仕事の収入は、密室でのお金の受け渡しです。建前としてはコンパニオンは客と自由恋愛しているだけで、このお金は闇に消えます。上手に立ち回れば、ほとんど税金を払わずに済むことも……

 しかし、世の中そうそううまい話はありません。

 この仕事には、波があります。「西向く侍」といって、2、4、6、9、そしてサムライの腰の大小を横に並べて11月。これらのシーズンには、お客があまり来ません。まず、6月と11月はボーナス前なので、男の懐は冷え切っています。年末年始は割と客がつくようですが、その分、年度末と年始の間に挟まれた二月は落ち込みやすく、年度開始の時期も忙しいため、お茶を挽きます。所詮は男達のあぶく銭が頼りなのです。
 だから、漫然と接客していたのでは、無収入の日が続くこともあり得るのです。この仕事は、派遣社員より過酷な面があり、お客が一人もつかなければ、収入もゼロなのです。

 それでも最初のうちは、お店が「新人だから」とお客に積極的に紹介してくれるでしょう。でも、お店がそうするのは、コンパニオン自身が頑張って、二度目の来店をしてくれるようにお客の気持ちを繋ぎとめてくれると思うからです。
 ですが……

 恋愛の延長くらいに考えて「裸になればお客が満足する」なんて思っていたら大違いです。
 なぜなら、お客はお金で相手を選べるからです。次は他の子、他の店でも全然構わないんですよ。サービスのクオリティが変わらないなら、新しい子のほうが新鮮だし楽しいですよね。しかも、あなたは一度目の接客で「最後まで」を差し出してしまっています。
 最後まで……となると、あなたが既によくご存知の恋愛テクニックのほとんどが、実は役に立たないとわかります。「焦らす」「期待させる」「突き放す」……全部できません。焦らそうにも接客時間は決まっていますし、期待するも何も最後までしてしまいますし、突き放したらお客さんは怒り出します。お金を払っているのですから。

 そういう中で、勝ち抜いていかなくてはならないのです。
 しかも最近は、奨学金の返済のために、まだ若い女子大生なんかも業界に飛び込むようになってきているといいます。そういう状況で安定して高収入を得続けるのは、決して簡単なことではないでしょう。

 キャバクラなんかも、基本的には同じです。
 こういった仕事が上手なら給与も上がっていきますが、そうでないと、入店当時より徐々に時給も下がっていくシステムをとっているところが多いです。

 しかもこの仕事は、いくら頑張っても職歴がつかないのです。派遣社員もそうといえばそうなのですが、それでも「この期間はどこそこで働いていました」ということはできます。風俗では、それすら不可能です。

 突き詰めていけば、この仕事は稼ぎが落ちていく一方なのです。なぜなら、誰でも年老いるからです。
 今はあなたも若くてきれいかもしれませんが、5年後はどうでしょうか。毎年毎年、若くてフレッシュな女の子が補充されていく中で、長期間戦い抜く自信はおありでしょうか?

 首も回らない場合の、窮余の一策としての風俗仕事は仕方ないとしても、これを今後の生存戦略の軸に据えるのは、あまりに危険です。

即お金になる資格は最強

 なら、お金になる資格があれば……
 おっしゃる通りです。それが最強です。

 医師免許があるとか、司法書士の試験に合格しているとか、何かあれば話は簡単です。
 でも、ないから、こうして悩んでいらっしゃるわけです。女性の稼げる仕事のトップにくる看護師の資格も簡単ではありません。最短でも三年間、看護師学校、または短期大学に通って受験資格を得て、合格しなければなりません。

 難易度低めの資格試験なら、と思うかもしれませんが、それでも受験には半年くらいの勉強が必要ですし、行政書士あたりなんかは、取っただけでは使い道なんてありません。あなた自身の営業力とマーケティング能力がないと、ほとんど利益を生まないのです。ひらたく言えば、あれは書類作成代行屋さんでしかないのですから。
 現に巷には、資格コレクターの女性が仕事に恵まれずに、右往左往している姿があちこちで見られるのです。

 或いは凄腕のデイトレーダーで、株やFX、仮想通貨などを瞬時に判断して売買し、市場から利益を吸い上げるとか……
 一発起業して、ビジネスで大成功……

 非現実的ですね。
 そんなことができるなら、とっくにやっていらっしゃるはずです。

 それに、女性はある意味、潰しが利きません。
 つまり、男性がやるような肉体労働の現場では、あまりお呼びではないのです。長距離トラックの運転手とか、引越し業者などの重い荷物の運搬とか、工場の現場とか、そういうのは男手のほうが役に立ちますし、重宝されます。

 あなたに必要なのは、「履歴書に書けるようなスキルが積みあがっていく」仕事で、かつ「長期間学校に通うなどの厳しい条件が付与されていない職種」で、しかも「女性であることがハンディにならない」ものです。
 そんな職業があるのでしょうか?

何十万人も不足するシステムエンジニア

 あります。
 プログラマー/システムエンジニアがそれです。
 以下、プログラマーと略します。

 まず、プログラマーの仕事は、性別に左右されません。腕力が必要なんてことはまずありませんし、仮にもし重量のあるサーバーを運搬するような状況になっても、女性の腕に頼るような事態にはならないでしょう。

 また、確かに基礎能力を身につけるための学習はしたほうがいいのですが、実はこの業界、ズブの素人から始めた人が少なくありません。大卒の正社員にしても、大学時代は情報科学科にいたかといえばそうでもなく「社会学をやってました」なんていう感じの文系プログラマーがいくらでもいます。
 よく、女性は数学系の能力では生まれつき男性より弱いところがあるから、プログラマーには向かない人が多い……なんて意見を口にする人もいますが、これも俗説です。確かに世界中の学校の成績を比較すると、どの国でも男性の数学の成績が高めに出ることが多いのですが、そもそも実際のプログラマーの仕事は、必ずしも数学的とは限りません。直前に述べたように、文系プログラマーがたくさんいるのです。
 むしろ、要求されるのは文系の能力ではないでしょうか? というのも、プログラマーの仕事は、仕様の打ち合わせが多くを占めるからです。ずっとパソコンに向かってプログラムを書いているようなイメージがあるかもしれませんが、実際には、作る予定のプログラムの内容について、何度も打ち合わせを重ねて、よりよい形を考えていくのも仕事のうちです。頭の中で論理的にあれこれ考えるよりも、「知っていることを正しく伝える」「伝えられたことを正しく理解する」能力のほうが、遥かに重要になってきます。もちろん、わからない場合にはわかるまで問い直せばいいのです。
 要するに、女性ならではのコミュニケーション能力が有効なお仕事なんですね。

 そして、この仕事は当然ながら職歴になります。どこでどんな技術を用いて、どれくらいの規模の案件にどんな立場で参画したのか。その時、あなたが受け持った作業の中でどんな問題が発生し、それをどう解決したか。明確に説明できるなら、次の現場でも喜んで採用してくれるでしょう。
 何より、今の日本は深刻なプログラマー不足なのです。実に七十万人も不足する見通しだと言われており、まともに機能する技術者であれば、どこでも引っ張り凧です。

 また、この仕事にはもう一つ、女性には嬉しいオプションがついてきます。それは、時短勤務・在宅勤務です。
 今のところ、そこまでメジャーな働き方とはされていないのですが、必ずしも週五日間働くことを要求されない現場もいくつか存在します。また、作業内容によっては在宅での開発も可能です。
 もちろん、労働条件が楽になれば、その分収入が下がるかもしれません。しかし、考えてみてください。もし、あなたに看護師の資格があった場合です。あなたは病院に出かけて働きます。場合によっては夜勤も割り当てられます。稼ぎは大きいかもしれませんが、この仕事に在宅勤務なんてオプションは、絶対につけられません。病院で患者に接するのでなければ、意味がない職業だからです。
 プログラマーなら、まだ数は限られているものの、リモートワークが可能です。ということは、仕事量を調節しながら、まだ幼い子供の傍にいてあげることもできるのです。

 では、どれくらい稼げるのか、ということですが……

 こればっかりは、スキルセットと勤務時間や勤務形態、契約内容などによって左右されるので、一概には言えません。
 ただ、実務経験数年のプログラマーが、業務委託で仕事を請け負う場合、都内なら月収五十万円を下ることは、滅多にありません。もちろん、残業代抜きで、です。ただ、この手の請負契約の残業代は特殊で、上下割というシステムになっています。月間労働時間が一定の範囲を超えないと、残業代としてカウントされないという問題はあります。
 同じスキルでも、これが派遣会社経由だと、手取りは三十万円台後半くらいに落ち込みます。ただこちらは、法定の残業代が出ます。つまり、休日出勤や深夜勤務などの割り増し賃金が適用されるのです。
 あなたの体力と気力次第ですが、状況次第では単月の収入が百万円を超えることもあります。

 印象的だったのが、この前、仕事で見かけた女性です。

 丸眼鏡をかけたショートヘアの彼女はプログラマーさんだったのですが、ある日、急に仕事を休みました。何かあったのかな、と思っていたら、翌日、ゆったりした服をきて出社しました。
 女性ならわかると思います。そうです、妊娠中に着用するような、体を締め付けない、ゆったりとしたマタニティワンピースです。それで私は、彼女が妊娠して体調を崩したのだと思いました。
 案の定、その翌月に、急に彼女は現場から去ることになりました。それでご挨拶する時に、お伺いしたのです。

「存じ上げなかったのですが、ご結婚なさっておいでだったのですね」

 すると、彼女は否定したのです。

「彼氏はいますが、結婚はしていません」

 なるほど! と思いました。
 彼女はお金に困っていません。だから、夫の収入に頼る必要がなく、結婚の必要もあまり感じていなかったのです。その上、仕事を調節できる業務委託の立場で現場を点々としているので、いざ出産となれば仕事をやめ、育児が一段落するなどしたらまた、仕事を探せばいいと、そういうライフスタイルを選んでいたのです。
 日本のエンジニア不足は、ちょっとやそっとでは解消されませんから、彼女は今後とも、このやり方で食べていけるでしょう。

 ただ、何のスキルもない状態でいきなりプログラマーになれるか、と言われると、やはり中途採用では、ズブの素人を採ってくれるところはありません。
 その場合は、多少の学習と訓練が必要になります。

 だから、学校を利用するというのが答えになります。看護学校などと違って、三年もかかることもありません。

 夫のお金で勉強して、離婚してから独立して生活する……
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 上にあげたのは、サポートが充実していることで知られているテックキャンプです。
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 その点、一度でも現場で一定の役割を果たした経験があると、それじゃあということになりやすいです。
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離婚の準備:育児の労力

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