親権が取れなくても、親には親としての責任が残ります。生活保持義務といって、未成年の子供に対しては、自分と同程度の生活水準を保障する義務があるのです。つまり、父親が豪勢なステーキを食べているのに、子供が飢えているというのは、許されないわけです。
これは、道義的な義務の話ではありません。しかも、他の親族に対する扶養義務とは違います。子供以外に対してであれば、「まず自分の生活を確保して」それから「余力があれば、支援する」ということで片付くのですが、子供の優先順位はその上にあります。自分と同等でなければいけないので、子供が餓死する時は、自分が餓死する時でなければいけません。
この責任は、離婚しても残ります。
それが形となったものが、養育費です。
親と同程度の生活を送る権利
養育費は、子供の権利です。
離別して、親権をとらずに別居する親(非監護親)が、それでも親としての責任を果たすのが養育費なのですから、あなた(監護親)が欲しいとか欲しくないといった話ではありません。仮にあなたが夫を嫌いぬいていて、一生関わりたくないと思っていたとしても、子供には「親と同水準の生活を保障される」権利があるのですから、より裕福な元夫からの資金援助を拒否することはできません。
夫もまた、養育費の責任から逃れることはできません。自分がステーキを食べるなら子供にもステーキを、パンの耳しか食べられないならパンの耳を分け与えなくてはいけないのです。もしこの義務が終わる時があるとすれば、それは子供が成人した時か死んだ時、或いは夫自身が死亡した場合でしょう。
養育費は子供が成人するまで支払うものですが、いつをもって成人とするかは、話し合いで延長することができます。家庭裁判所の調停や審判では満20歳ということになりますが、高校や大学卒業までとすることもあります。
また、離婚時点では逆にまだ生まれていない子供でも、父親は誕生してからは養育費を支払わなくてはいけません。
養育費の相場
養育費は、生存に最低限のものを与えるという意味でもありません。
衣食住などの生活費はもちろんのこと、教育費、医療費、更には小遣いなどの娯楽費まで含まれるというのが一般的な見解です。
では、いくら払えばいいものか、ということですが、これは法的な基準がありません。両親の収入や財産、生活レベルに応じて話し合いで決まります。
夫が極端に裕福であったり、貧乏であったりするのでなければ、現実的な数字が出てくるはずです。子供一人につき、月額2~4万円となることが多いようです。
ただ、あなたとしては手間を惜しまず、子供の生活のために、毎月どれくらいの生活費がかかってくるかを、細かく算出しておくべきです。その金額とあなたの収入から、子供の生活費として支出できる金額との差額が、夫から取るべき養育費の最低額です。
今は「養育費・婚姻費用の算定表」というものがあり、家庭裁判所での調停や審判に移行した場合には、これが参照されます。これによって、裁判の結論がだいたい見えてくるので、前もって調べておくことで、結果を見通しやすくなります。この算定表の範囲から大きく外れない請求なら、認められる可能性も高いでしょう。
こうして決まった養育費は、基本的には毎月の支払いとなります。一括払いというケースも、私自身、見たことがありますが、あまり一般的ではありません。まとまったお金が手元にあると、うっかり他の用途に使いたくなってしまうものですし、「同居しない親との繋がり」という意味でも、月払いが基本とされているのです。
ただ、夫の性格や職業から、どちらがいいかについては、あなたがよく判断すべきです。安定した職業に就いているなら月払いでいいのですが、いきなり大赤字になってもおかしくないデイトレーダーなどであったら、少し考えたほうがいいでしょう。
養育費は、基本的に離婚してから払い始めるものですが、離婚前の別居期間についても、請求ができます。
実質、別居開始時点で子供を連れて生活していたという事実があるのですから、この期間についても、夫は子供を援助しなければならなかったはずだからです。実際、離婚請求を認容するに際して、別居後の監護費用の支払いを命じることができるとする判例があります。
養育費の額の変更と取り立て
養育費は、基本的に一度金額が決まったら、変わらず支払われ続けるものですが、予想外の状況においては、増減する必要が出てきます。
法律が変わって教育費が今の三倍になるとか、日本にスーパーインフレが起きて、毎月一千万円ないと暮らしていけないとか、いきなり子供が難病にかかって多額の治療費が必要になったとか、元夫が失業したとか、そういう状況です。
月額を増額するということもあれば、一時金を出してもらうということもあります。元夫と直接協議できない場合には、家庭裁判所での調停、審判を利用してください。
こうして支払いの約束を取り付けたところで、実行させられなくては意味がありません。
協議離婚の場合は公正証書を作成することが、対策になります。「執行認諾文言付公正証書」にしておけば、裁判の判決と同じ効力を持つので、あとあと安心です。いざとなれば強制執行できます。ただ、素人がそれをするのは難しいので、弁護士に依頼することになるでしょう。
調停や審判での取り決めであれば、家庭裁判所に履行勧告、履行命令という手続きを申し立てて、相手方に履行を促すことができます。こちらはさほど難しくありません。
しかし、それでも何をしでかすかわからないのが、元夫というものです。
だいたいからして、同居してもいない子供のために、黙ってお金を振り込み続けてくれるようなマメな男だったら、そもそも離婚なんてしなかったはずです。
民事執行法が改正されて、給与の差し押さえをする際に、過去の支払い分について不履行がある場合には、期限が到来していない将来の養育費についても、差押えすることができるようになりました(民事執行法一五一条)。差押え禁止範囲も縮小され、給料から税金・社会保険料を控除した残額の2分の1まで差し押さえることができます。かつ、債務者が定められた期間内に養育費を支払わない場合には、一定の金額を支払うよう裁判所が命じる間接強制も認められています。
それでも、こうした手続きによるのは、大変でしょう。
これはもう、あなたの方針次第ですが、面接交渉を続けている場合には、元夫の支払い率も高いといいます。
自分と無関係ではない、と思わせることで、お金を払う意味も見出せるというわけですが、そういうことなら、子供との面接を認めるのも仕方ないかもしれません。
逆に、子供に会わせたくない場合には、一括で養育費をとるのも、必要な対策かもしれません。特に、夫の人間性に信頼がおけず、子供が暴力にさらされるかもしれないというようなケースでは、真面目に検討すべきところでしょう。
再婚と養育費
もう一つ、養育費の支払いが途絶しやすい問題があります。
再婚です。
あなたが再婚して、その相手にそれなりに経済力がある場合、夫は養育費の減額を要請してくるかもしれません。事実、新たな夫にかなりの経済力があった場合では、それが認められているケースもあります。
これは別にあなたや子供が困窮する話ではないので、あまり問題ではないかもしれません。
まずいのは、元夫が再婚した場合です。
しかも子供が生まれてしまうと、優先順位が変わることがあります。
元夫は、変わらず子供の父親なので、養育費を支払う義務はあります。ありますが、新たに生まれた子供がいた場合、そちらに対しても責任があることになります。法律は、残念ながらあなたの子供と、再婚相手の子供を区別してくれません。
そして、元夫には、新しい家庭を支えるのが精一杯という経済力しかない可能性もあるのです。そして判例からすると、今、同居している家庭を優先するケースが多いようなのです。
元夫が再婚しないのが一番なのですが、こればっかりは止めようがありません。
結局のところ、元夫がどうしようもないダメ男で、貯金もなければ真面目に働くつもりもなく、かつ女たらしとくれば、養育費は絶望的になってしまいます。最終的には、あなた自身が稼ぐ能力を身につける以外、解決策はないのかもしれません。
私、蓮沼としては、その辺りも含め、女性に経済的な自立をお勧めしています。