夫なんていらない。だけど、この子とは一緒にいたい……
あくまで蓮沼個人の体感ですが、多くの女性は、そう考えていると思います。
しかし、離婚した場合、親権は夫婦のどちらかにいきます。
今の日本の法律では、両方には与えられません。必ずどちらかだけです。
親権とは
ところで、そもそも「親権」とはなんでしょうか?
親権者とは、子供の養育監護、財産管理を行い、不動産の売買や裁判などの法律行為を行うときには、法定代理人となる者をいいます。
親権は、子供に対する親の支配権という意味ではありません。子どもの権利条約に明記されているように、子供は一人の人間として、その意思決定の自由や成長発達の権利を有し、親に養育される権利を保障されています。この、子供の権利に対応して、親の養育の義務があり、これが民法では親権として定められていると解釈されるべきものです。
現行の民法においては、婚姻中は父母の共同親権が行使されていることになっています。しかし、離婚した場合は一方を親権者と定めなければならないとしています。
親権者の条件
では、親権を取るには何が必要でしょうか?
条件を満たすことです。
裁判所は、子供を育てられない親に親権をもたせたいとは考えません。ただ、そう言うと「経済力が必要か」と捉える方もいらっしゃるかと思いますが、もちろんそれも重要ではあるものの、絶対ではありません。
それより、子供を養育するのに適した親であるかどうかを問われます。具体的には、子供を虐待するような親ではないことがまず重要です。
また、子供の年齢が親権に大きく影響します。
・~10歳未満
母親の重要性が高いとされるので、妻の側が親権をとりやすいです。
・10~15歳
子供の意思を尊重しながら、種々勘案します。
・15歳~
子供が自分で決めます。
とはいっても、判断基準はこれだけではありません。
とにかく「現況」が大切です。
たった今、親が子を養育していて、問題が起きていない、生活が成り立っているという事実が強いのです。
家を出る時には、子供を連れていくこと
例えば、こんな事例を考えてみましょう。
あなたは今から二年前、家庭外の恋人を作って家から飛び出しました。その後、ずっと別居が続いていました。あなたはネット上で株の売買をするようになり、大きな収入を得られるようになっていました。
二年間の別居があったので、夫は離婚請求をしました。その時、あなたは子供の親権を要求しました。あなたが出ていった時点で子供は七歳、今は九歳です。あなたがいない間、子供の世話は、ずっと夫がしていました。
どうでしょうか?
勝てる気がしませんよね。
このケースの夫は二年間に渡り残された子供を養育したというプラスの実績をもっています。
しかも妻は、一度子供を放り出して不貞行為に走ったという、マイナスの実績があります。
そこまででもなくても、一度、夫が子供と共同生活を始めたら、取り返すのはかなり難しくなります。
とある判例で、三歳の女児について、父を親権者とする離婚が成立して三週間後、母から親権者変更申立てがなされた事案がありました。原審では「母性優先の原理」、つまり幼い子供には母親のこまやかな愛情が必要であるという点を尊重して申し立てが認められたのですが、抗告審では「父との安定した生活があるのに、これを短期間で覆して新たな監護環境に移すことは、子の心身に好ましくない影響を及ぼす」とされて、母親側の申し立てが却下されたこともあります。
だから、親権が欲しければ、家を出るタイミングで子供を連れていなくてはいけないのです。
「連れ去り」にどう対応するか
この意味で、離婚は先手を取るのが有利という原則が、ここでも生きてくるのです。
いったん別居が成立してから、実力行使で子供を勝手に連れ去る(略取)のは、これはもう、許されません。実際に、子供を連れて家を出た女性から、夫が実力で子供を奪い返した事例で、妻からの引渡請求が認められたケースがあります。
しかし、別居が成立する直前までであれば、そのようなことは問題になりません。夫と交渉する前に、先に子供を新居に連れて行き、確保しておけばいいのです。
ただ、その後でも連れ去りの危険は常にあると思ってください。
たいていの夫はそこまで法律を知りませんし、子供が通う学校などの場所は把握しているので、出入り口で見張っていれば下校時間に捕まえることができてしまいます。
逆にもし、あなたが夫に子供を連れ去られたなら、夫に申し入れをしましょう。
夫が拒否した場合には、家庭裁判所に面接交渉、或いは別居中の子の監護者の決定を求める調停を申し立ててください。裁判所は夫を呼び出して、あなたの請求の実現可否を調べます。またもし、ここで夫が拒否し続けたなら、あとで親権を決定する際に、夫の親権者としての適格性を疑われるため、あなたにとって有利です。
夫が呼び出しに応じなかったり、面接交渉の実子まで拒んだ場合には、審判を申し立てることができます。調査官が夫や子供に会い、あなたとの面接の意思の有無や方法についての意見などを確かめます。裁判官は、虐待などの事情がない限り、あなたとの面接が子供の利益に反するものではないとして、回数、日時、場所、方法などを決めて審判を出します。
これにも従わないとなると、まだ絡め手はありますが、たぶんもう、まともな方法で夫が子供との面会に応じることはないでしょう。加えて、子供が夫を恐れて、あなたと会いたくないと言い出したら、打つ手がなくなります。
「一方親権者による子の全面的支配は、一応自己の有する権限に基づくものといえるので原則として適法」
というのが判例であり、裁判所の見解です。
ただ、何事にも例外はあります。
一方の親が子供を宗教団体に連れ込み、もう一人の親からの請求にまったく応じなかった事例で、「親権者の一方が、子の福祉に著しく反する環境の下においてこれを全面的に支配し、他方親権者の関与を完全に排除するなど、実質的に夫婦共同親権行使の趣旨を没却し、親権の濫用と認められる特段の事情がある場合には、例外的に違法となると解するのが相当である」として、不法行為の成立が認められたケースもあります。
もし夫がそうした常軌を逸した行動に出る可能性がある場合には、しっかり対応しましょう。
親権者と監護者
親権をどちらが取るかで、ひどく揉めた場合に、「監護権者」という言葉が出てくるかもしれません。
さして重要でもないのですが、簡単に説明しておきます。
親権には「身上監護権」と「財産管理権」の二つがあります。
身上監護権とは、子供の衣食住の世話をし、教育やしつけをする権利や義務のことです。
財産管理権とは、財産を管理する能力のない身成年者に代わって法的な契約などの代理人となる権利と義務のことです。
親権には、子供の住む場所を指定したり、常識の範囲内で子供が悪いことをした場合に戒めたり、子供が働く場合には判断して許可するといったものも含まれています。
通常は子供を引き取った親が親権者で、監護者でもあり、教育を引き受けることになります。
しかし、近頃は親権を巡るトラブルが増えていて、夫婦がどちらも譲らないということがあります。親権、というと「親の権利」みたいに聞こえるから、取り合いになっているのですが、実際のところはほぼ「義務」だけがあるのですが……
それで、例外的に親権から身上監護権を切り分けて、親権者と監護権者を分けるという解決方法を取ることもあります。引き取る側が監護権者ということで、引き取れなかった側にも一応親権者としての肩書きを与えるというだけのものです。
親権は、取り合うようなものではないのですが……
離婚に子供の声を反映させる制度はない
最後に、子供が離婚に反対している場合は、どうしたらいいでしょうか?
よく話し合ってくださいとしか言えません。夫婦の立場と子供の立場はまったく別なのです。
ただ、法制度として、子供の意見を離婚に反映するものはありません。
結婚できるのは男性と女性で、双方の同意によって成立するわけですが、子供が生まれた場合、当事者が増えていることになります。離婚を決めるのはやはり夫婦ですが、子供はそれに巻き込まれることになるのです。
一応、家庭裁判所の審判の場合には、子の監護に関する事項について、15歳以上の子供については、子供の陳述を聞かなければならないという定めがありますが、それ以外に子供の意見を反映させる仕組みはないのです。
あくまで意見聴取が義務付けられているだけなので、あなたが離婚すると決め、夫がそれを了承すれば、離婚そのものは可能です。
ただ、子供の今後については、母親であるあなたが、しっかりと考えてあげてください。