財産分与の取り立て方法と譲渡税、など

離婚の戦術

 離婚した! 財産分与も決まった! というだけでは、意味がありません。
 実際に分与された財産を取り立てなくてはいけないからです。

 離婚に際して、夫に充分な財産があれば、あとはすぐ払うか、払わないかで確認もできますし、協議離婚の場合でも、公正証書にしておけば、強制執行することもできます。もちろん、裁判の結果があれば、それには強制力がありますから、同じく強制執行可能です。
 ですが、夫に貯金がなかった場合、たとえば「数年間にかけて、毎月10万円ずつ送金してもらう」というような約束をすることもあります。夫に稼ぐ能力はあっても、ギャンブルなど浪費癖がひどい場合などにありがちなパターンです。婚姻期間中は、あなたの頑張りで生活が成り立っていたというようなケースですね。
 しかし、なんといっても、この場合の夫は「ギャンブル狂」です。これはもう、治るものではないので、口座に現金が残っていたら、気がついたら次のレースに全額突っ込んでいたりするのです。歯止めがききません。

 というわけで、こういったケースでは、取立ての必要が出てきます。

財産分与の取り立て

 一番簡単なのは、既に裁判まで済ませている場合です。といっても、その裁判が一番きついのですが……
 判決を得ていなくても、裁判上の和解や、家庭裁判所の調停で取り決められたことであれば、和解調書や調停調書をもとに、地方裁判所に強制執行の申し立てをすることができます。
 執行の対象となるのは、給料、預金、不動産、家財道具などです。
 調停、審判、和解、判決の場合には、履行勧告といって、家庭裁判所から、元夫に支払うよう勧告してもらう手続きもあります。履行勧告の申し立ては電話でも可能です。更に調停、審判では、家庭裁判所に履行命令を出してもらうこともできます。

 協議離婚の際など、公正証書で取り決めをしている場合は、公正証書の相手への送達をしてもらうよう公証役場に申し立て、その上で強制執行の申し立てをします。

 しかし、これがちゃんと公正証書にしていない、ただの念書の場合は、少し面倒になります。
 地方裁判所に裁判を提起する必要があり、判決を得てから執行することになります。基本的に裁判は時間がかかるものですし、あなたが毎月の財産分与を受けられないというのは、緊急を要する事態であることが少なくないでしょう。例えば手元に乳幼児がいて、あまり働けないとか、そんな中で支払いが止まるのは、なんとしても避けたいところです。
 こういう手続きを踏めば財産分与の取立ては可能ですが、くれぐれもこの段階に踏み込まないよう、前もって対策しておいてください。

 ただ、取り立ても万能ではありません。
 給料の取立ては、一度に4分の1までしか差し押さえることができないのです(民事執行法一五二条)。
 但し、給与額から税金、社会保険料を控除した金額が44万円を超過する場合には、33万円を差し引いた金額を差し押さえることができます(民事執行法施行令二条)。

 また、差し押さえしたくても相手の財産状況が不明である、という場合には、裁判所に財産開示の申し立てをすることができます(民事執行法一九六条以下)。
 財産開示実子の決定が出されると、元夫は裁判所に呼び出され、宣誓の上で、財産についての陳述をしなければなりません。欠席したり、陳述を拒否すると過料(罰金)の制裁が科されます。

 なお、養育費の取立ては別途、特例があります。
 詳しくは養育費の項目をご覧ください。

詐害行為

 さて、財産を取り立てたはいいですが、それが「詐害行為」にあたるとして、訴えてくる人がいるかもしれません。

 例えば、夫が借金を重ねたので、離婚に踏み切ったとしましょう。それで当然ながら、夫には今、現金がありません。資産といえば、この自宅くらいです。だから、夫からは家をもらい、出て行ってもらいました。
 ところがこれで一件落着とはならず、夫の債権者が苦情を突きつけてきたのです。

 詐害行為とは、何でしょうか?
 不当に債権者の権利を侵害する行為のことです。具体的には、例えばあなたが借金を負っているとして、それを返済しなければならないのに、わざと自分の財産を安く売り飛ばしたり、人にあげたりして目減りさせたりした場合に当てはまります。
 少し考えればわかりますが、借金があるのですから、それを返すのが優先です。人に贈り物をしている場合ではありません。
 でも、現実にそういうことをしてしまう人もいるのです。例えば、もとは大金持ちで、人に物をあげるのが当たり前の生活をしていたとします。そんな家に、またお客がやってきて「やあ、その壷は大変に見事ですね、うちに飾りたいものです」と言う。すると気前のよすぎるあなたが「じゃあ、どうぞお持ちください」などと言って渡してしまう、と。
 これに歯止めをかけないと、債権者がひどいことになるのは当然のことです。だから、こうした贈与は詐害行為とされ、取り消される場合もあります(民法四二四条)。

 しかし、離婚している場合には、基本的には詐害行為とはなりません。
 結婚期間、収入、家庭生活における貢献度などを検討して、妥当な範囲で財産分与がなされている場合には、あなたは自分の受け取った分を取り返されることはありません。
 また、仮にあなたが明らかに半分以上を不当に受け取っていた場合でも、その多すぎる分だけが取り消しの対象となります。
 慰謝料も原則として詐害行為には含まれません。受けた被害に対するものだからです。
 要は適正な範囲での分与であれば、大丈夫ということです。

 但し、債権者逃れのために、パッと偽装結婚したり、偽装離婚したりした場合には、当然ながら「詐害行為」です。
 奥さん子供を逃がすためだとして、財産の90%以上を譲って離婚し、「ほら、もうお金ないよ」と債権者に言ってごまかそうとするのは、許されません。

財産分与と贈与税その他

 離婚すると、大きな金額が動きます。
 結婚していた期間の長さにもよりますが、何百万、場合によっては数千万円という金額が、夫からあなたへと譲渡されます。

 気になるのは、これに税金がかかるかどうか、ですが……

 原則、かかりません
 当然ですよね。そのお金は「もともと」あなたのものだったのです。ただ、二人が共同生活をしていく上で、つい夫の口座に入れっ放しになっていただけだからです。それを家計への貢献度に応じて、適切に配分し直しただけなのですから。

 但し、諸事情を加味してもなお、一方の得た取り分が多すぎる場合には「贈与税」が課せられる場合もあります。
 なので、有利な条件で財産分与をしたい場合でも、あまりメチャクチャなことはできないのです。ほどほどで手を打つ必要もある、ということですね。

 厄介なのは、不動産です。
 家や土地など評価価格が変動する財産を分ける場合には税金が課せられることがあるのです。
 なぜなら、慰謝料や財産分与として家土地を渡した場合、これは分与する側が、受け取る側に「売り払った」とみなされるからです。つまり、「譲渡所得税」が発生します。また、不動産を受け取る側には「不動産取得税」、不動産の名義変更においては「登録免許税」がかかり、しかも不動産の所有者となると、毎年「固定資産税」を納めなければいけません。
 もっとも、居住用の不動産……家などを譲り受けた場合には、譲渡所得の特別控除も適用されます。また、所有期間次第ですが、軽減税率も適用されます。結婚して20年以上であれば、自宅用の不動産なら、一定の条件下においては贈与税が非課税扱いになることもありますので、事前に税務署などに相談するといいでしょう。

 最後に、蓮沼から注意すべき問題点を一つ。
 判決で一千万円を妻に払うべし、と決まっても、安心してはいけません。特に、夫が浪費家の場合は、必ず現物を掴んでおきましょう。
 判決で手にできるのは、あくまで「債権」です。夫がいくら支払います、という約束でしかないのです。よって、他の第三者によって資産が押さえられてしまうと、取りっぱぐれる可能性もあります。
 気をつけてください。

離婚の慰謝料

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