財産分与の基準

離婚の戦術

 離婚において最も重要といってもいいテーマ、それが離婚給付です。つまり、離婚に際してどれだけの財産をもらえるか、という話です。
 離婚給付には、財産分与慰謝料とがあります。
 慰謝料は、一方に非があった場合に、その苦痛に対して支払われるものです。つまり、どちらにも非がない円満離婚の場合には、発生しません。しかし、財産分与は、よほど結婚していた期間が短くない限り、発生します。
 これら以外のお金の問題としては、子供がいる場合の養育費がありますが、それぞれ別個に説明しています。

専業主婦の貢献

 日本の法律では、夫婦別産制といって、夫の稼いだものは夫のもの、妻の稼ぎは妻のものとする考え方に従っています。ですので、結婚生活中に家庭が得た財産も、実は個人のものということになります。
 しかし、それを杓子定規に適用した場合、女性の人権はほぼないも同然になってしまいます。家事労働だけをやってきた場合、妻は「何も稼ぎ出していない」=「取り分ゼロ」ということになってしまうのですから。

 そこで離婚の際には、一方が他方に対して、名義には関係なく、どちらがどれだけ財産の取得に貢献したかを判断して、それを分配することを請求できるように定めることで、夫婦間の公平感を保っているのです。
 財産分与には、3つの性格があります。

 1.夫婦で作った財産の清算
 2.離婚後の生活の扶養
 3.慰謝料

 財産の清算としての分与ですが、実は民法の上では、これは明確な基準がないのです。「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情」を考慮して裁判所が定めることとされています(七六八条三項)。
 よって家庭裁判所が一切の事情を考慮して行うものとされていますが、原則としては2分の1ずつが基準となっています。これは、双方が持っている財産ではなく、共同生活を行っていた期間に取得された財産について適用されます。
 例えば、こんな家庭があったとします。

 夫:結婚前に1億円の貯金、年収1千万円(税抜)
 妻:専業主婦、貯金、収入ともゼロ
 生活費に毎年5百万円を消費、それ以外はすべて貯金したものとする
 10年間結婚生活を送った末に離婚

 この場合、5百万円の10年分、つまり5千万円の貯金が共同財産となります。夫が結婚前から持っていた1億円は、財産分与には影響しません。
 5千万円が半分ずつにされるので、妻には2千5百万円が分与されます。

 離婚後の生活の扶養についてですが、これはいわゆる離婚後補償というもので、別項で説明しています。
 一方の側が、高齢だったり病気だったり、或いは出産からまもない妻だったりして、特に困窮する立場にあるとされる場合に、もう一方に経済的支援を命じるものです。

 このように、結婚という契約は、離婚の際の取り決めも含めて、「多く稼ぐ側が、少なく稼ぐ側に支払う」ルールとなっています。
 その意味で、なるべく高収入の男性と結婚したいと考える女性は、実に現実的な選択をしているといえるでしょう。

 慰謝料については、本来は狭義の財産分与とは別のものです。別に夫婦関係になくても、暴力の被害に遭った場合は、慰謝料を請求できるからです。
 ただ、離婚の場合は、ただでさえ多くの権利関係が同時に動きます。例えば、

「このマンションの持分は半分は夫のものだが、妻はそれを買い取る、しかしそのためには二百万円不足する」
「夫の不貞行為について三百万円の慰謝料が認められた」

 というような状況もあり得ます。
 そういうことなら、不足する二百万円を不貞行為の慰謝料で相殺してしまえば、話が簡単になります。だから、そういう意味で、財産分与に慰謝料を含めて請求することもできるのです。

協議離婚でなら、ある程度は有利な条件をとれるかもしれない

 さて、そうした原則を踏まえた上で、大事なことをもう一点、述べておきます。
 上記の通り、原則は2分の1での財産分与が原則ですが、協議離婚においては、当事者の合意があれば、それで終わりです。つまり、若干ですが、あなたに有利な内容で相手に合意を迫ることに成功すれば、お得に終わらせることができるのです。
 とはいえ、きれいに現金しかない場合は、2分の1はきれいに2分の1で、あとは離婚後補償や慰謝料しか、介在する余地はありません。しかし、財産といっても、単純に金額で割り切れるものばかりでもないでしょう。マンションなどが最たるものですが、今現在住んでいる場所をとっておきたいというような事情がある場合、分与される財産の品目の中でも、「是非とも欲しい」ものと「譲ってしまっても構わない」ものとに分かれてくるわけです。
 こうなると、頭の使いようが大事になってきます。例えば、現金とマンションだけが共同財産として、これを分割するとします。現金の預貯金はそのまま計算するしかないとして、マンションをどう評価するか、です。
 あなたがマンションを欲しがっている場合は、なるべくマンションの価値を低く見積もるほうが得をします。

「三年前にこのマンション買ったけど、中古だし、かなり値崩れしてるよね? 今、不動産屋で売ったらいくらになりますって見積もり、もらってきたよ。一千万円だって。だから、預貯金プラスマンション一千万円分を、二人で割ろう」

 しかし、あなたがマンションを夫に押し付けたい場合には、逆のことを言うべきですね。

「三年前に買ったばっかりだけど、これ、いくらしたっけ? 三千万円? じゃあ、預貯金とこのマンション三千万円分で計算して、二人で割ろう」

 そして、マンションを買い取る資力はないからと夫に譲り、現金を多めに取るのです。また、三千万円で見積もるのが高すぎる、と言われたら、少し妥協できる金額を言います。不動産屋に叩き売った場合の値段ではなく、近隣の同等のマンションを買った場合の価格なんてどうでしょうか。
 実際の裁判になったら、家庭裁判所が判断を下すでしょうから、こちらの目論見通りになるとは限りません。しかし、協議離婚の段階であれば、こちらが得するように言いくるめることも不可能ではないかもしれません。
 とはいえ、その辺には限度もあります。限度を超えて妻が有利な財産分与は、贈与とみなされ夫に課税されることもあります。別にそんなのどうでもいい、と思うかもしれませんが、そうなると夫は取り決めのやり直しを要求することになります。それで実際、裁判所が協議離婚の決定を覆した例もありますから。やりすぎは注意です。
 蓮沼としても、あまりに公平性を欠いた離婚は、あまりオススメできません。ほどほどで有利なくらいがいいでしょう。

 また、他のところでも説明しましたが、こうして決まった内容については、必ず公証役場で公正証書にしてもらいましょう。

財産分与の有効期限

 最後に、財産分与の有効期限について述べておきます。

 離婚時の財産分与は、2年間まで有効です。
 また、離婚時の慰謝料も、3年間という期限があります。

 離婚すると同時に財産分与の話もするかと思いますが、離婚届だけ先に出した場合などには、注意してください。

ケース:専業主婦

 では、具体的な事例に移りましょう。
 仮にもし、あなたが専業主婦だったら、財産分与はどんな形になるのでしょうか?

 上に見た通り、財産分与の原則は「2分の1ずつ」です。
 たとえマンションが夫の名義であろうと、貯金が夫の名義にすべてあろうと、婚姻期間中に築いた財産は、等分に分けなくてはいけません。実際に専業主婦でも婚姻期間中に築いた資産の半分を得た判決があります。

 ただ、そのためには、それが確かにあなたの取り分になることを証明する情報がないと、苦労することになります。結婚して二十年、夫はマンションも持ってるし、夫名義の口座に三千万円入ってる、だけどどうやってそれが貯蓄されていったのかのプロセスは不明……では、あなたの取り分がどれくらいかわからないのです。
 あなたと結婚する前からマンションを持っていたのなら、それは夫のものでしょうか? しかし、ローン支払い中にあなたと結婚し、同居し始めたのだとすれば、その支払いの間の収入は夫婦で等分としますから、ローンの返済にあなたが貢献しているとみることも可能です。例えば、あなたと結婚する前に夫がローンを半分終えていたのなら、残り半分はあなたと協力して支払ったのだから、あなたのマンションの取り分は4分の1といえるでしょう。
 同様に、預貯金にしても、あなたと結婚する前と今とで、どんな変化があったでしょうか? その間の夫の収入がすべて明らかになっていれば、あとは計算するだけです。

 いまだに財布を妻が握る家庭は少なくありません。
 夫に対してお小遣い制をとって、家計全体の収支を妻が把握するこのシステムは、離婚に際して女性を大いに助けてくれます。もし毎月の計算が面倒でも、後々のためと思って頑張りましょう。

ケース:共同経営

 それでは、少し変化球ということで、今度は夫婦で飲食店を経営していたとしましょう。

 結婚と同時に、夫の親が所有していたお店と土地を夫婦が利用することになりました。夫の両親の死後には、夫がそれらを相続しました。つまり、店舗やその土地には、あなたの権利が及ばないという前提です。
 その上で、あなたと夫は、飲食店を経営して二十年、働いてお金を貯めてきました。では、財産の分配は、どうなるでしょうか?

 どちらも同じくらい勤勉で、一方の貢献が特に大きいといえるほどではない場合、或いはそれを立証できない場合には、2分の1ルールが適用されます。つまり、専業主婦の場合と同じく、共同財産の半分があなたのものになります。
 ただ、この場合、家事育児に対する貢献も、計算に入ってきます。仮にもし、あなたと夫が、同じ時間だけ飲食店で仕事をしていたのに、家事の負担があなただけに偏っていた場合には、その分、あなたへの分配を多く見積もることも可能になります。
 また、もっとひどいケースもあり得るでしょう。

「ここは俺のオヤジが残した店なんだから、俺のものだ」

 と言いながら、気が向いたときにしか夫が働かない。あなたは背中に幼い我が子を背負ったまま、必死で厨房で働いていたとします。夫は飲んだくれるか、フラフラとパチンコ屋で遊んでいるばかり。子供の世話もしませんし、部屋の片付けもしてくれません。
 こういうケースでは、妻の取り分が70%にもなったものがあります。

 ここまではあくまで個人事業主のレベルのお話でしたが、これが会社経営だと、すぐさま財産分与、というわけにはいきません。ただ、実質的に個人経営に近い状態であるといえるなら、やはり個人財産とみて、その半分を請求することができます。法的に会社だから、というだけでは、財産分与を回避することはできないのです。
 株式や出資金をもっている場合には、その買取を要求する、会社の従業員という形であれば、退職金を請求するといった方法で、貢献分を取り戻すことができます。

ケース:共働き

 では、まったく別の職場で共働きしている場合はどうでしょうか。

 これも2分の1ルールが適用されます。別の職場で、給与に違いがあるのに、2分の1なのかということですが、専業主婦の場合と同じで、家事育児への貢献も反映されるからです。
 仮に夫の給与が月収40万、あなたの給与は20万しかないとしても、あなたが家事育児において中心的役割を果たしてきたといえる根拠があれば、夫の収入は妻の内助の功によって支えられてきたと考えることができます。
 逆に、あなたの収入も夫の収入も、同じく30万だったとしても、家事があなたに偏っていたのであれば、50%以上の分配を受けることも可能です。

 問題は、それを証明する方法です。
 家事をした、していない証拠というのは、なかなか難しいです。それこそ、夫婦で話し合って、チェックシートでも作って、毎週、どちらが何をしたかをマークしていくようなシステムで家事運営しているなら別ですが、そもそもそんなやり方をしてくれるような夫であれば、離婚に発展することは少ないでしょう。
 先々のことを考えるなら、日記を残すなどの工夫が必要です。毎日、何時何分頃にどれくらい時間をかけて料理を作った、夫の弁当を用意した、休日は掃除をした、ということを、なるべく具体的に、かかった労力を含めて記述しておくことです。
 もちろん、それらはあなたの主観で書かれただけのものですが、そうした具体性がある記述が長期間にわたって残されていると、信憑性が高いものと判断されやすいです。あとで役立つものなので、ぜひ習慣化してください。

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