財産分与における退職金や年金、難しいケース

離婚の戦術

 よくある財産分与のケースについては、こちらにまとめましたが、世の中にはもっと深刻かつ複雑なケースも存在します。

 離婚時の財産分与の原則としては「夫のものは夫のもの」「妻のものは妻のもの」だけど「共同財産は半分ずつ」です。しかし、仮に一方があまりに生活全般において非協力的で悪質だった場合には、このルールもそのままでは適用されない場合があります。

夫の特有財産ですら、妻に与えられることがある

 例えば、あなたが結婚した男はギャンブル狂だったとします。とにかく仕事らしい仕事もせず、朝からパチンコ競馬、夜は麻雀と、終わりがありません。それがちょっと貯金ができたかと思うと、ラスベガスのカジノで全額スッてくるというありさま。
 そんな絶望的な状況で、あなたは一人で働いて子供を育て、また、夫の生活態度では到底維持できなかったであろう夫の持ち家も維持することに成功したとします。
 しかし、子供が成人、独立した以上、あなたはもう解放されたいと考えるようになりました。さて、離婚する際、あなたの貢献はどう認められるでしょうか?

 この場合、夫の貢献はあまりに少なく、それどころかマイナスで、実質女手一つで子供を育て、生活を支えてきたのです。つまり、あなたがいなければ夫は持ち家を失っていたはずでした。

 この夫の持ち家は、結婚する前から夫の所有物でした。してみると、「夫のものは夫のもの」のルールにより、妻への財産分与の対象にはならない……かと思いきや、そうでもないのです。
 この場合は、夫の特有財産である家にしても、他方配偶者の貢献がなければ失っていたものと推定されることから、財産分与の対象になり得ます。

 ただ、どの程度があなたの持分になるかの判断は、「事情による」としか言えません。ここでも証拠を残し続けることの大切さが浮き彫りになっていますね。

糟糠の妻は堂より下さず

 また、こうした例の逆……
 上記の例は、持ち家のある、いわば「資産価値のあるはずの夫が、資産価値をなくす行動をとった結果」についての問題だったわけですが、逆に夫の資産価値が上がってから離婚する場合には、どうなるでしょうか?
 例えば、こんなお話です。

 夫がまだ医大生だったうちに結婚したので、ずっと私が働いて生活を支えていました。
 ところが、医師免許を取った後で、夫は他所の女性と関係をもつようになり、私は離婚を決断しました。まだ夫の収入は多くなく、貯金もありませんが、医者なので、これからたくさん稼ぐと思います。離婚したら、どれくらい請求できるでしょうか?

 昔から「糟糠の妻は堂より下さず」というものですが、現実にはそんな夫は決して多くありませんよね。
 例えばロシア革命の時なんかもそうでした。共産主義者として活躍した男達は、妻達も同志として役立てていましたが、いざ皇帝を打倒してソヴィエト連邦を立ち上げてからは、みんな先を争うように離婚して、なんと貴族の娘達と次々再婚したというのです。
 なんだ、結局、社会正義のためとか共産主義とか言いながら、お前が貴族に成り代わりたかっただけじゃん……と妻達は溜息をついたことでしょう。

 それはともかく、こうしたケースでは、この女性は泣き寝入りになってしまうのでしょうか?
 夫が稼げるようになるまで支えたのに、稼げるようになったらポイされた。これはかなり悲惨です。報われるべきタイミングで裏切られたのですから。

 これまでは諦めるしかないお話だったのですが、この辺はだんだん変わりつつあります。海外でも、収入に繋がる資格の取得などに妻の貢献があった場合、財産分与の際に考慮すべき事情とする判例が少なくありません。
 他に分割できる財産で埋め合わせがききそうにない場合は、弁護士に相談するべきです。

時間差のある妻の貢献

 財産分与の原則は、2分の1ずつです。つまり、夫の労働の結果の半分を、妻は受け取れるのです。
 しかし、夫の労働の結果が、すぐさま収入に反映されるとは限りません。十年以上も経ってから、結果が戻ってくることもあります。言い換えると、その時点で与えられるべきものが、まだ手元にないという状況です。

 その具体例が、退職金です。

 従来の判断基準では、原則として、離婚の時点に現存する財産のみが分与の対象でした。だから、多くの女性が熟年離婚に踏み切るのも、この夫の退職のタイミングを見計らってのことだったのです。仮に今まで、二十五年間も我慢を重ねて結婚生活を続けてきたとして、あと五年で夫が退職金をたっぷり受け取るとしたら、どうでしょうか? 気持ちとしては一刻も早く別れたいのですが、それをしてしまうと、おいしいところを取り損ねてしまう、ということになります。

 しかし、これを財産分与の対象財産とする裁判例が現れ始め、定着しつつあります。
 例えば、二年後に支払われる退職金について、妻に2分の1の取り分を認めて財産分与の算定をしたケースもあります。ただ、これは定年退職が遠くない場合に限られていますので、大昔に結婚していたことがあるからといって請求できるものではありません。
 また、計算方法も一定しておらず、「将来の退職金支給時の額を基準として、その時点での支払いを命じる」ものもあれば、「中間利息を控除して現在額に引きなおして額を決定している」ものもあり、どうにもスッキリしません。
 それでも、妻の協力分が無視されるということは避けられます。
 例えば、勤続40年で3000万円の退職金を受け取る夫がいたとして、あなたが結婚20年で離婚する場合は、

 3000万円÷40年×20年÷2人=750万円

 みたいな計算になるでしょう。
 この辺の問題がありそうなら、弁護士など専門家に相談してみるのも手です。

年金も分割

 また、年金も分与の対象です。

 かなり以前から、年金は財産分与の対象として、考慮されてきました。例えば、将来受給する年金を計算して、四百万円の分与を認めた判決もあります。
 また、扶養的財産分与として、夫の年金と妻の年金の差額の四割を、妻の死亡まで払うことが命じられた判決や、双方の年金差額の月9万円を妻が死亡するまで支払うことを命じた判決、妻の年金額の2分の1にあたる金額を妻が死亡するまで支払うことを命じた判決などなど、類例はいくつもあります。
 ただ、上記にみるように、扶養的な財産分与とする例もあれば、清算としての分与とする例もあり、基準がはっきりしていませんでした。しかも、認められるのは婚姻期間が長い場合で、だいたい三十年以上も夫婦でいた場合に限られていたのです。

 これが2007年から、新たな年金分割制度が適用されるようになりました。
 大きく分けて、「合意分割制度」「3号分割制度」があります。

 合意分割制度とは、報酬比例部分を分割の対象とするものです。離婚時に合意があれば、婚姻期間中に納めた保険料の納付記録を、最大で2分の1まで分割することができます。
 社会保険庁に届出をすることで、分割を受けた人は自分の年金受給時に分割分を加算してもらえます。つまり、元夫の支払い能力がなくなったり、死亡した場合でも、関係なく年金を受け取れるのです。
 年金分割を希望している場合は、あなたと夫の年金の内容を知るべきです。住所地の社会保険事務所で情報提供してもらうことができます。年金分割の合意をしたり、審判をしてもらう際には、社会保険庁より入手した情報提供通知書を必ず添付しなければなりません。
 当事者間で分割の協議ができない場合は、家庭裁判所に年金分割の調停を申し立てることができます。それでも合意に至らなければ、審判または判決で分割割合を決めてもらうといいでしょう。

 3号分割制度ですが、この「3号」とは、専業主婦のことです。国民年金の第3号被保険者のことだからです。
 3号被保険者の年金分割ですが、これは離婚時に合意がなくても、婚姻期間に応じた年金の2分の1を分割して受け取れます。ただ、これも手続きを忘れてはなりません。あなた本人が、年金事務所に分割の請求をする必要があります。

 なお、対象となるのは厚生年金や公務員の共済年金についてであって、自営業などで夫婦共に国民年金に加入している場合は対象外です。

 このように、財産分与は幅広くいろんなところに関係してきます。私、蓮沼も離婚の相談を受け付けておりますが、大事なのは、どんな分与対象があるかを事前に把握しておくことです。
 慰謝料より財産分与の方が額が大きくなるのがほとんどですから、よくよく勉強なさっていただければと思います。

財産分与の取り立て方法と譲渡税、など

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