離婚後補償

離婚の戦術

 さて、こんな状況を考えてみましょう。

 仮にもし、あなたに頼れる実家がないとして。とある男と結婚しましたが、あなたが妊娠すると欲求不満になり、夜遊びを繰り返すようになりました。あなたはじっと我慢していました。子供が生まれれば、この人も変わってくれるだろうと期待したのです。ところが、出産後には暴力まで振るうようになりました。さすがにこれは赤信号です。自分だけならともかく、子供まで暴力にさらされたら……
 というわけで警察に駆け込み、民間非営利団体などの助けを借りてシェルターで生活して、離婚に至りました。

 ですが気付くとあなたは無職であり、手元には生後六ヶ月の娘がいるばかり、実家のような場所もなく……

 現実には、こういう過酷な状況にありながらも、少なくない母親が「我慢」を選択します。とにかく体を張って子供を庇い、毎日打たれてもひたすら耐えるのです。なぜなら、どう考えても一人で自立して生きていくことができないからです。赤ん坊の世話を放り出して働くわけにもいかず、シッターさんを雇えるほどの収入もありません。
 耐え切れればいいのですが(本当はよくないですが)、普通は無理なので、どこかでおかしくなります。理性のタガが外れて夫を殺してしまったり、赤ん坊を手にかけたり、はたまた自殺したりします。それくらいなら後先考えずに家を出たら、と言えるのは外野の人間だけです。本人はもう、苦しみのあまり、視野がひどく狭まっているだろうからです。

 出産は、ある意味、人質の出現に等しいものがあります。
 この子に不自由させないためには、もうひたすら我慢するしかないのか、もう逃げられないのかと。

離婚しても責任は残る

 1996年の民法改正案では、夫婦で作った財産の清算としての財産分与だけでは不十分な場合……具体的には配偶者の一方が高齢や病気などで社会復帰が難しい場合や、乳幼児を抱えていたりなどの事情がある場合、自立準備期間として、一定の期間、離婚後の補償(扶養)を認めて経済的公平性を図る制度が取り入れられるようになりました。

 この取り決めには、大きな意味があります。
 上記の例でいうと、夫婦で築いた共同財産は、ほとんどないケースです。結婚間もなく妊娠出産しており、しかも夫は風俗通いでほとんど貯金を残していません。しかし、風俗店に通えるだけの経済力ならある、ということですから、離婚した妻の生活を支える能力は有しているわけです。

 また、慰謝料とも違い、わざわざ相手の行動についての証拠を集める必要がありません
 上記の例では、夜遊び(不貞行為)と暴力という重大な瑕疵が夫側にありますが、これを裁判で訴えるには、夫が風俗店に入る瞬間を捉えた写真や、遊んだ先でもらった領収書(必ずもらうものでもありません)、それからあなたが打たれた証拠になる医師の診断書なども必要になってきます。夫の暴力について詳しく説明したところでも書きましたが、虐待慣れした危ない男は、傷跡の残らない暴力を巧みに使うので、これも必ず証拠がとれるということにはなりません。
 しかし、この離婚後補償は、どちらが悪いという話をしているわけではないので、相手についての証拠がなくても、現に今、あなたが困窮している事実がありさえすれば、認められる可能性があるのです。

 離婚後補償(扶養)において考慮される要素としては、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情……となります。
 乳幼児がいて、収入がないような上記の例であれば、三年間は扶養が必要でしょう。
 実際の裁判の例でも、高齢の夫婦に、月10万円で10年間、計1200万円の離婚後扶養が認められたケースもあります。

取れるうちに取っておくこと

 支払いについては、相手にその能力がなければ分割でもやむを得ませんが、一括で取れるなら、そうしたほうがいいでしょう。というのも、上記の例には落とし穴があって、夫があなたへの復讐を優先した場合、仕事をやめたりするかもしれないからです。
 特に貯金もない状態でそんなことをしたら生きていけないと思うのですが、とにかく怒りに身を任せてとんでもない判断を下す人というのは、どこにでもいるものです。例えば、いきなり海外に飛び出してしばらく戻ってこないとか。銀行振込じゃなくて、給与を手渡しにするような日雇い労働を始めるとか。公的機関が収入を把握できない場所で稼いでしまえば、なかなか手出しはできません。お金があるとわからない状況では、強制執行もできないのです。

 もう一つ。
 証拠なしでもあなたの困窮があれば裁判所を動かせるとはいえ、それでも夫の今の収入などの証拠があったほうがいいです。源泉徴収票など、夫の経済力を証明するものです。これがあると、非常にスムーズになります。

 離婚後補償という切り札はあります。ですが、過信しすぎないようにしてください。

 ただ、さすがにそこまで困窮した場合、生活を支えるという意味では、他の方法もあります。
 生活保護児童手当児童扶養手当児童育成手当母子家庭等の住宅手当ひとり親家族等医療費助成制度……

「子供もいる、離婚もできない、自立もできない、どうしようもないのなら、いっそ……!」

 と覚悟を決めてしまう前に、いろんな手段があるのだと気付いてください。
 及ばずながら蓮沼も、当サイトを通じて、女性の皆様に「道がある」ことに気付いていただければと思っています。

離婚の要・別居戦術のポイント

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