離婚の原因:家庭内暴力(DV)、虐待

離婚の原因・理由

 私、蓮沼がもっとも問題視しているのが、家庭内暴力です。
 なぜなら、もっとも緊急度が高い離婚理由だからです。

 あなたが今、同居している男性から日常的に暴力を受けている状況なら、一刻の猶予もありません。少しでも早く、家を出ましょう。警察やNPOの支援を受けて、安全なところで生活できるようにするべきです。もちろん、子供に暴力を振るっている場合でも、同様です。

「専業主婦で稼ぎがないから……」
「世間体が悪いから……」

 なんて理由にはなりません。それでも逃げましょう。

 そう、「逃げる」のです。
 なぜなら、家庭内暴力(domestic violence, 略してDV)は、命にかかわる危険だからです。

 あなたは、例えば地震や津波の時に、自宅の金庫の中に入れっ放しにしておいた預金通帳を取りに戻りますか? 裸では恥ずかしくて外に出られないといって、服を探しますか? 生き残りたければ、そんなのすべてほったらかして、安全な場所目指して全力で走るべきです。それと同じです。

DVから守ってもらう

 暴力が苛烈な場合には、離婚に先立ってDV法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)を利用することをお勧めします。
 各都道府県にある配偶者暴力相談センターや警察に相談し、裁判所に保護命令を申し立てると、退去命令(二ヶ月間の自宅からの退去及び住居付近の徘徊禁止)または徘徊禁止命令(六ヶ月間の被害者への付き纏い、徘徊禁止)を命じてもらえます。また、2008年にはDV法が更に強化され、無言電話や夜間の電話、面会要求や親族への接近も禁止することができるようになりました。

 ただ、実際問題、本当にいくところまでいってしまっている暴力夫は、ブレーキなんてかかりません。家にいると知れば、たとえ有罪になろうとも乗り込んでくる可能性は捨て切れません。
 その場合は、NPOなどの手を借りて、どこかシェルターで保護してもらいましょう。

暴力という「習慣」

 普通、人が暴力を振るうには、それなりの理由と覚悟が必要です。
 例えば、あなたの大事な娘を誘拐しようとしている犯罪者がいたらどうでしょうか? 恐ろしくても、あなたは手元のパイプ椅子で犯人に殴りかかるのではないでしょうか。そしてもし、うっかり相手を殺害してしまったら、声も出せないくらいに驚いてしまい、しばらく食事も喉を通らなくなるでしょう。
 これが普通の感覚です。

 しかし、暴力に慣れるというのは、まったく違った感情の仕組みを作り出します。
 最初は「カッ」となって手をあげただけかもしれません。それで引っ叩いたら、瞬間的に「スカッ」としてしまった。すると、脳はそれを学習するのです。誰にも咎められず、ろくに反撃もされず、気持ちよさだけが残るので、またついついやってしまうのです。
 それが習慣になると、もはや「スカッ」としなくても、何の気なしに殴るようになります。それどころか、「スカッ」欲しさにどんどんエスカレートしていきます。いつしか手加減も忘れ、全力で拳を叩きつけるようになるのです。

 家庭内暴力で子供を殺してしまった、妻を殺してしまった、というケースは、大抵こういうパターンを辿ります。明確な殺意はないのですが、どこかで暴力に対する抑制が麻痺してしまい、習慣化された怒りの衝動に突き動かされて、いくところまでいってしまうのです。
 だから、この手の「スイッチ」が入っていない状態の夫は、家の外ではごく普通だったりします。職場では後輩の女の子にも笑顔を振りまき、少年野球の試合では笑顔で拍手して、道端で肩をぶつけた相手には、ごめんなさいと頭を下げたりさえするのです。だから、傍からみていると、その人が恐ろしいDV夫である事実は、誰にもわかりません。

 もちろん、中には沸点の低い、凄まじく衝動的な男もいます。これはもう、最初からどうしようもないです。

DV男の見分け方

 では、どうすれば、そういう家庭内暴力の被害を避けられるでしょうか?
 これは、一にも二にも、「そういうことをする男と結婚しない」に尽きます。

 具体的には、たとえ八つ当たりにしても、モノにあたるような姿を見たら、黄信号だと思ってください。もちろん、相当ひどい目にあった場合などには、怒りに囚われることもあるでしょう。仕草が乱暴になったり、声が大きくなったりするのは自然です。ただ、そうした発散方法が一瞬で終わらず、ずーっと家の柱を殴り続けているみたいな感じだと、これは少し危ないです。
 自分の中のストレスを、うまく消化する方法を知らない男である可能性が高いからです。

 全然関係ないところの怒りですら、家の木の柱にぶつけるのです。
 では、怒りのきっかけをあなたが作ったらどうなるでしょう? 或いは、子供だったら?
 子供なんて、配慮などできるはずもありません。ことに赤ん坊なら、泣きたい時に泣き、うんちする時にはうんちしてしまうのです。それにいちいちイライラされたら、たまったものではありません。

 また、自分の理性を手放す類の習慣を持っている男性も危険です。
 具体的には深酒する人は危ないです。酔っ払っていると前頭葉の機能が低下し、より衝動的な行動をとりやすくなります。いわゆる酒乱というやつですが、こういう悪癖をもっている人は、なかなかそこから脱することができません。
 もちろん、常識の範囲で飲酒する分には問題ないのですが、分量が過剰だったり、ただ飲むのが好きというよりストレス発散の方法として酒を用いるタイプは、やはり危ないという認識をもっておくべきです。

できれば医師の診断書を

 暴力を離婚の理由にする場合は、なるべく傷跡の写真などを残すようにするべきです。といっても、大怪我するまで打たれ続けるわけにもいきません。そうそう都合よく、証拠が残る程度で暴力が止んでくれるとも限りません。もちろん、ちょうどいい塩梅で怪我をさせられたら、すぐさま医師の診断書をもらって証拠としましょう。
 夫が衝動的で、考えなしに行動する人物であれば、話は簡単です。殴ってしまってから、ごめんよと言ってくるのです。その場では頷いておき、早めに医師の診断書を取ればいいのです。

 しかし、現実にはなかなかそううまくはいかないものです。

 暴力にはいろいろな種類があります。法律上では、ただの暴力と、負傷に至る暴力とが、それぞれ別の罪状として定めてあります。
 まず、わかりやすい暴力としては、ただ殴ること、刃物で刺すこと、お皿を投げてぶつけることなどが挙げられます。当然、被害者は怪我をします。これについては「傷害罪」に分類されます。

 一方、目に見える証拠が残りにくい暴力が「暴行罪」です。
 例えば、怖いパンチパーマにイレズミのヤクザが、あなたに詰め寄って「ああん? どういうつもりだオイ」と言いながら胸倉を掴んで引き寄せたとします。あなたは傷一つ負っていません。殴られてもいません。服も破れてはいません。しかし、暴力を予感させる状況ですし、相手の手はあなたの体(着衣)に触れています。
 これだけで暴行罪が成立するのです。ですが、これでは後々まで残る証拠も取りにくいですし、怖いという意味では充分効き目がありますし、困ったものですよね。
 ただ、突き飛ばしたとか、吊り上げたとか、大声で威圧したとか、こうした暴行罪に該当しそうな状況があったら、是非ともビデオ撮影しておきたいものです。

 いわゆる言葉の暴力、ひどい侮辱だけでも、離婚という目的には役立つことがあります。一度や二度、夫婦喧嘩の際に暴言が飛び出た程度ではどうにもならないかもしれませんが、精神的虐待と呼べるほどに執拗に心を傷つける言動を繰り返すようであれば、客観的な記録さえあれば、いざという時、役立ちます。

「理性的」な虐待ほど怖いものはない

 悪質なタイプだと、証拠になりにくい暴力を上手に使ってきます。
 たとえば、妻や子供を押さえつけて、水を満たした洗面台に顔を突っ込ませるのです。こうすれば外傷はできにくく、しかも被害者は窒息という凄まじい苦痛と恐怖を味わうことになります。最悪の場合は命を落とす危険な虐待方法ですが、死ぬまではほとんど証拠が残りません。
 この手の行為は、証拠となる映像か、妥協してせめて録音でもあればいいのですが、こんな手の込んだ暴力を振るう男は確信犯なので、そういう可能性は当然、視野に入れています。かといって、その他の暴力を振るうように誘導するのも危険すぎます。とはいえ、逃げずにいたら、いつか殺されてしまいます。
 だから、信じてもらえようともらえまいと、全力で逃げる。これをまず、基本方針にしないといけないのです。

 どこに逃げるかですが、もしアテにできるのなら、実家がいいでしょう。しかし、この手の問題を抱える人というのは、不幸なことに、もともと実家も健全でない家庭である可能性は低くありません。その場合は、やはり警察か、NPOに頼るのが一番です。

 しかし、逃げた後、こういう夫は笑顔で追いかけてきます。

「なに、大した事ありません、お恥ずかしい、ちょっとした夫婦喧嘩ですよ……」

 身の毛もよだつとはこのことです。連れ戻されたら、今度こそ溺死まっしぐらでしょう。

 暴力が立証しづらく、しかも深刻な場合には、落ち着いて他の証明手段を探しましょう。夫はあなたを暴力で支配することで、実現したい何かがあるはずです。それは通常の方法では到底受け入れられない何かです。例えば、あなたを恐怖の檻に閉じ込めている間に、娘との性的関係を結ぼうとしているとか、妻に犯罪行為を片棒を担がせようとしているとか、怪しげな新興宗教に家族を入信させようとしているとか……そういう次元です。
 それを冷静に考えると、その歪んだ欲望の部分が付け目になるとわかります。
 或いはその他の、夫婦生活を破綻させていると判断できる部分を拾い上げて、とにかく離婚と接触禁止命令に繋げていきたいところです。

 こういう場合にも、別居は有効な手段です。ただ、この手の恐ろしい夫は、妻の逃げていく先を把握していることが多いです。実家に逃げ込んでも、怒鳴り込まれたりするかもしれません。いえ、怒鳴ってくるなら証拠を掴むチャンスですが、にこやかに妻を連れ戻そうとする場合もあります。とにかく遭遇しないように、よく考えて逃げましょう。

女性が加害者とされるケースもある

 最後に、むしろ女性のあなたが加害者だった場合ですが……

 問題が根深くなる前に、それとなくやめましょう
 相手があなたの暴力を指摘して、訴えてくる危険があるからです。もちろん、いまだに「女性が男性を殴るなんて、たかが知れている」という価値観は広く行き渡っていますし、この点では有利に立ち回ることはできます。しかし、それでも万一を考えると、鬱憤晴らしに夫を殴ることの損得はまるで釣り合いが取れません。

 また、女性の場合は暴言で相手を追い詰めることも多いですが、これも離婚の理由になります。女性のが口が達者な分、突き刺さる言葉が出てしまうのは仕方ないところがあるのですが、裁判の場で斟酌してもらえる保証はありません。
 いずれにしても、そのような暴力、暴言が止められないということであれば、あなたは何か、夫に強い不満があるのです。それが何なのかを明確にして、改善させることができそうであれば改善させ、できそうになければ、自分に有利な理由を作って離婚しましょう。

男と殴り合ってはいけない理由

 それともう一つ、暴力を振るってはいけない理由があります。
 それは「反撃」される可能性があるからです。

「うちの夫? おとなしいし臆病だし軟弱だし、女の私に殴られても何も言えないくらい気が小さいし、大丈夫よ」

 だから危ないのです。
 この手の男は、ストレスを溜め込んでいても、どう発散したらいいかも知りません。あなたに打たれている間、ただ下を向いて我慢することしかできないのです。
 しかし、何かのきっかけで理性が弾け飛ぶと、本当に何をしでかすかわかりません。手加減がわからない分、突然暴れだして、衝動的にあなたを殺してしまう危険だってあるのです。

 私の昔の知人のカップルですが、まさにこのケースでした。
 結婚していたわけではないのですが、女性の方は気位が高く、いつも相手に向かって「私が付き合ってあげてるのよ」という態度で接していました。それだけでなく、頻繁に引っ叩いたりもしていたようです。ですが、男の方は黙って耐えていました。
 だいたい二年経った頃、とある密室で彼女がいつものように彼を叩いていたところ、ついに理性の糸が切れてしまいました。彼は何もいわずに彼女の頭を掴み、それを手加減なしで壁に叩きつけたのです。
 幸い、彼女の怪我は軽く、これをきっかけに別れるだけで済んだのですが、こういうことがあるから怖いのです。

 男の腕力を甘くみている女性が意外と多いので、私は危機感を抱いていますが……

 これは生まれつきの体力差で、どうにもなりません。ちょうど人類がどれだけ体を鍛えても、チンパンジーには勝てないようなものです。チンパンジーは、人間だったら筋力がガタ落ちになるような生活(カウチポテト族のようなライフスタイルです)を長期間強要されても、筋力がそこまで落ちません。初めからそういう風にできているのです。
 男性も、いろんな意味でチンパンジーみたいなものです。

 実のところ、男女の筋力差は隔絶しています。それは、単純に体重を比較するだけでも明らかです。
 日本人の男女の平均体重(26~29歳)は、こんなにも違います。

 女性:52.5 kg
 男性:69.5 kg

 これをボクシングの体重別階級に当てはめると、こんなに差があります。

 ヘビー級 90.72kg~
 クルーザー級 ~90.72kg
 ライト・ヘビー級 ~79.38kg
 スーパー・ミドル級 ~76.20kg
 ミドル級 ~72.57kg

 スーパー・ウエルター級 ~69.85kg (男性の平均体重)
 ウエルター級 ~66.68kg
 スーパー・ライト級 ~63.50kg
 ライト級 ~61.23kg
 スーパー・フェザー級 ~58.97kg
 フェザー級 ~57.15kg
 スーパー・バンタム級 ~55.34kg

 バンタム級 ~53.52kg (女性の平均体重)
 スーパー・フライ級 ~52.16kg
 フライ級 ~50.80kg
 ライト・フライ級 ~48.97kg
 ミニマム級 ~47.62kg

 スーパー・ウエルター級とバンタム級、実に7階級差です。7階級差のマッチメイクなんて、まずあり得ません。危険すぎて死人が出ます。ましてや男女では生まれつきの筋力も違います。同じ体重でも、男の方が圧倒的に筋肉量が多いのです。
 こういうことを言うと「男なんか金的一発で倒せる」と、やったこともないのにおっしゃる女性もいます。確かにきれいに金的を蹴飛ばせば男は倒れますが、逆に男が女性を襲う場合、「どこに当たっても倒せる」という現実もあります。しかも体が大きい分、リーチも長く、つまりは攻撃が先に当たります。オマケに女性は髪を伸ばしていることが多いので、そういったところに指が引っかかるだけで、女性を引き摺り倒すことができてしまうのです。

 要するに、あなたが特別に鍛え抜かれたアスリートだったり、武道家だったりしない限り、普通の男と殴りあうのは非常にリスキーです。もし、夫が手加減を忘れて暴走したら、誰か第三者が助けにきてくれない限り、あなたが命を落とすまで、五分とかかりません
 男を見下すなとは言いませんが、腕力の差は認識しておかないと、危険な状況に陥る可能性があると理解しておいてください。

 それだけの筋力があるのに、男性はやや衝動的(チンパンジーのように)なところがあります。まして離婚というネガティブなイベントに直面したら、どう反応するでしょうか? 逆上した元夫の手にかからないよう、身の振り方は考えておくべきです。
 ある意味、猛獣を飼育するようなものだということは認識しておいたほうがいいと思います。

離婚の原因:モラル・ハラスメント

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