離婚とヘソクリ

離婚の戦術

 離婚はしたい。
 でも私は専業主婦だ。収入がない。
 だったら夫の給料からコッソリ貯金しておけば……

 これが俗に言う、ヘソクリというものです。

 離婚資金にヘソクリは有効なのでしょうか?
 それは妻であるあなたのものなのでしょうか?

夫婦別産制

 夫婦別産制という言葉があります。
 これは当事者が自分の名前で得た財産は、原則として各自の特有財産となり、どちらの財産家明らかでないものは共有財産と推定する、という原則です(民法七六二条)。ということは、夫が外でサラリーマンの給与として得たお金は夫のもの、という解釈になります。

 女性にとっては非常に不利と言わざるを得ませんが、最高裁の考え方は、基本的にこれです。
 以前、「夫の収入の半分は妻の家事労働の補助によるものであるから、その分については妻の収入として所得税の申告をしたい」という訴えを受けて、裁判所はこの見解を退けています。

「配偶者には財産分与請求権、相続権等が認められており、夫婦間で実質上の不平等が生じないよう立法上の配慮がなされている」

最判昭和36年9月6日民集一五巻八号二○四七頁

 それは、こうなりますよね。
 だって、税金が減っちゃいますから

 日本は所得に対して累進課税を定めていますから、年収一千万の夫と専業主婦にかかる税金と、年収五百万ずつの夫婦にかかる税金とでは、前者の方が高くなるのです。具体的には、年収一千万なら所得税率は33%、これに対して五百万円なら20%です。
 だったら、最高裁としては、すべて夫の物ですよ、と言ったほうが、税金が減らないので政府のためになるわけです。
 ただ、実質は共同財産であるとする判決も別にありますから、やはり夫婦で築いた財産は共同財産ということになるのでしょう。

協議離婚の旨み

 しかし、ポイントはそんなところにありません。
 ヘソクリの扱いが重要です。

 ヘソクリは、夫が把握していないお金です。
 家事消費の隙間に紛れて、あなたが少しずつキープしてきたお金、ということです。課税は基本的に収入を得たタイミングに対して行われますから(消費税以外)、あなたの夫が給与所得者で、既に税金を天引きされた給料をもらっている場合、あなたがそこから少しずつお金を別口で貯めていっても、そこに税金はかかりません。
 つまり、うまいこと協議離婚で決着をつけられる場合には、このお金のことを言わずにスルーできる可能性があるのです!

「私とあなたの共同財産は、今、この口座に入ってる一千万円よ。離婚するんだから五百万ずつってことでいいわね?」

 しかし、これとは別に、あなたの手元にはヘソクリが百万円ほどある、となれば笑いが止まらないでしょう。
 但し、調停や裁判といった形で離婚が長期化すると、相手もいろいろ考えます。あなたがどうして別居を継続できるのか、その資金はどこから出ているのか。実家にそこまで支援する能力があったかどうかなどなど、夫も考え出すでしょう。
 何より、公平に財産分与を行おうとする裁判所は、そうした隠れた財産についても光を当てようとしますから、おいしい思いはできなくなってくるかと思います。万一、ヘソクリを公平な財産分与の対象とせず、ごまかそうとしたと知れれば、裁判官の心象も非常に悪くなるでしょう。どの段階でヘソクリを諦めるかも、ちゃんと覚悟しておいてください。
 とはいえ、蓮沼としては、ヘソクリの存在はいざという時の支えになるので、可能ならぜひ、用意しておいて欲しいものです。財産分与の際に対象となってしまうとしても、夫の兵糧攻めに対する有効な対抗策であることは変わりませんから。

 せっかく溜め込んだヘソクリです。
 なんとかシレッと自分の懐にとどめておきたいところですね。

離婚後補償

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