離婚の要・別居戦術のポイント

離婚の戦術

 別居は、婚姻関係の破綻を決定づけるものです。
 それだけでなく、あなたの心の中に、いろいろな変化を惹き起こします。夫がいない生活とはどんなものか。離婚後の人生を実感することで、今まで自分がどんなに苦しんでいたか、逆に何をなくすのかなど、発見も少なくはないでしょう。

 蓮沼式離婚メソッドにおいては、別居は計画的かつ多面的に展開すべき作戦です。
 他のところでも述べる話と重複する部分もありますが、それだけ別居が離婚における核心部分となっているということでもあるのです。
 離婚後の未来を考えて、なるべくよい形でスタートを切りましょう。

 まずは別居前の準備からです。
 衝動的に夫の家を飛び出すのではなく、まずここから考えましょう。別居の開始において判断すべき事柄は、これほどにも多岐に渡ります。

今ある家に暮らすのは自分(+子供)か、夫か

 子供を連れて別居する場合、新居が遠いと転校を強いられることになります。私も実例を知っていますが、教育委員会はあまり例外を許してくれないので、ちょっと遠い場所に移っただけで中学生の息子が別の学区に編入することになったりします。かといって、あまり近所に暮らしていると、夫が気楽に立ち寄ってきたりします。それは我慢できないでしょう。
 また、新居を借りる場合には、敷金・礼金が必要だったりもします。引越しも労力がかかりますし、業者を使えば少なくないお金がかかります。何度もしたいものではないはずです。そして、住居費は固定費ですから、離婚が成立した後も、毎月かかってくるコストです。新生活の全体像が見えてこなくては、何が自分にとっての最適な物件か、判断できないでしょう。例えばそこは、通勤には便利な場所でしょうか。近くにいい保育園はあるでしょうか。
 結局、元の住居で暮らすことを前提にさまざまな計画がたてられ、実行されてきたので、転居によるダメージはゼロにはなりません。ある程度は妥協しなければならないでしょう。

 一方、夫を追い出して自分が元の家で暮らすとしても、これも簡単にはいきません。
 自分と子供が立ち去る分には夫の同意など必要ありませんが、夫を追い出すとなると、まさか腕ずくというわけにもいきませんから、夫の側が逃げ出すような要因がなければなりません。例えば、不倫相手がいるとか……
 離婚における交渉が済んだ結果、持ち家を譲らせて、そこに舞い戻るという展開ならあり得ますが、そうでもなければ家から夫を出すのは、かなり難しいと考えてください。特に、暴力などを理由に夫から逃げる場合には、ほぼ不可能です。また、夫を追い出すということは、離婚を希望する理由を告げることと切り離せませんから、こちらの手の内を見せる結果にもなります。慎重に判断してください。

当座の生活費

 続いて問題になるのが、生活費です。
 離婚が成立し、新生活の目処がつくまでの間は、あなたの家計は赤字続きになります。もっとも、子供がいないとか、いてもそれなりの年齢に育っていて手がかからない場合には、そうした負担は小さくなります。
 離婚のプロセスが始まってから、しばらくの間は息切れしないで済むように、一定以上の金額は持っておくようにしましょう。理想的には、百万円以上の現金があれば、非常にいいです。
 手元に自由に動かせるお金がなく、偶発的に家を飛び出した場合で、かつ夫が暴力的で何をしでかすかわからない場合などは、選択肢がほとんどありません。実家に頼るしかないのですが、その実家に凶器を手にしてやってくる可能性だってあります。実際、そういった事件は過去にもありました。
 お金さえあれば、夫に行方を知られずに済むのですから、婚姻があるうちから、できれば家庭が円満なうちから、ヘソクリを用意しておくことをお勧めします。

子供の帰属

 子供の親権を得たい場合、この別居の開始においては、必ず連れて行かねばなりません
 実際には、子供の年齢が若ければ若いほど、母親の側が有利になるのですが、仮に裁判にもつれ込む場合、法律は「現況を優先する」傾向があるため、今現在子供と同居しているという既成事実が必要なのです。
 もちろんそれでも、夫の側に重大な問題があるとか、夫がそもそも子供の親権を取りたがっていない場合であれば、親権は取れるでしょうが、そうでなかった場合が大変です。一度、別居が成立し、離婚へのプロセスが始まってから子供を奪い取るのは、法律上、許されない行為です。もちろん、子供自身があなたとの同居を強く希望している証拠があったり、夫が子供を虐待している場合であれば、しかるべき手続きによって取り返すこともできますが、いずれにせよ、遠回りになります。

家庭外の恋人について

 もしあなたが、夫とは別に新たな男性を恋人としていて、彼との生活を希望しているのだとしたら、少し我慢が必要です。
 この離婚の原因が、あなたの新しい恋のせいであるとされてはたまりません。まず、婚姻破綻の事実を作ってから、恋人との時間を楽しみましょう。また、新しい男性があなたの傍で生活を支えているとされた場合、夫はあなたへの婚姻費用の減額を申し立てることができるようになります。
 要するに、こんなところで隙を見せても、いいことなど一つもありません。

証拠集め&証拠隠し

 家を一度飛び出したら、戻るのは困難です。
 妻の「反逆」に気付いた夫が、家の合鍵を変えるかもしれません。或いは、それまではおとなしかったにせよ、鉢合わせた瞬間に怒りが爆発して、何をしでかすかもわかりません。
 何より、離婚が始まったことを察知するので、夫も自分の身を守ることを考え始めます。不倫の証拠になりそうなものは次々始末し、逆にあなたにとって不利な証拠を掻き集めようとするのです。

 家を離れる時には、証拠集めはきれいに終えておきましょう。

ペット

 ペットについては、非常に悩ましいですね。
 日本の法律では、物と同じとされています。つまり、テレビなどの家電と同じ扱いです。よって、家を出る時に持ち去ってしまい。それが「現況」になれば、なし崩し的にあなたのものにできるかもしれません。そうでなくても、財産分与時にあなたの側に権利をとってしまえば、一緒に暮らすことができます。

 しかし、ペットは生き物です。
 あなたが見つけたアパートは、ペット可でしょうか? そういう物件は、割高になるのではないでしょうか?
 餌代病院代もかかります。しかし、何より心配なのは、環境の変化がペットを苦しめることです。
 といって、夫がちゃんとペットの面倒をみられるかどうかもわかりません。普段からペットをかわいがってくれる人だったか、よく思い出してください。

 ペットについては、また項目を改めて全般的な話をすることになるかと思います。

別居の目的と名目、始め方

 あなたの別居の目的はなんでしょうか?
 冷静に、必要性を一つずつ挙げてみてください。そして、重要度・緊急度がどれだけ高いかを評価するのです。

 暴力が原因なら、緊急度は非常に高いです。逆に、恋人と過ごしたいから、というのであれば、緊急度は低いでしょう。
 現実の離婚に際しては、複数の理由が絡み合っていることもあります。夫の暴力がまずきっかけで、慰めてくれる優しい男性に心移りして、それで離婚を決意……なんてこともあるでしょう。そうなると、自分でもどれが大切なのか、わからなくなってしまうこともあるかと思います。

 その上で、あなたの別居に正当性を与える理由を作り出してください。夫が手をあげるから逃げた、だから別居しているというのは、正当な理由です。そうして婚姻の破綻をまず、成立させましょう。

 別居の始め方についても、その目的と密接な関係があります。
 夫の暴力が原因であれば、とにかく行動は迅速に、しかも気付かれないうちに済ませてしまうべきです。例えば、夫が外出中に、持てるだけの荷物や生活道具を車に乗せて、遠くへと逃れるのです。
 理想的には、この時点で既に弁護士などと打ち合わせを済ませておくのがいいです。逃げただけでは終わらず、この後、どうしても夫と離婚についての話し合いを持たなくてはならないからです。

 家から脱出した後、いつ頃、夫のところに戻って離婚を認めさせるか、それも手順を考えておきましょう。
 例えば、家から逃げた三日後に、予め協議離婚の条件を決めた上で、弁護士を伴って夫の家に向かうのです。もちろん、夫が在宅かどうかの確認も必要ですから、それを弁護士にしてもらうのも手です。

 別居は大きなコストがかかる行動であり、婚姻の破綻を決定づける選択であり、環境をガラリと変える決断です。
 計画段階だった離婚が、実行段階に移り変わるポイントが、ここなのです。是非とも慎重に踏み切ってください。

離婚しても、現在の住居を維持する

タイトルとURLをコピーしました