離婚しても、現在の住居を維持する

離婚の戦術

 別居が始まるといっても、常に女性の側が子供を連れて出るとは限りません。
 中には、家庭外の愛人にうつつを抜かした夫が、いきなり家を出て、そちらで生活を始めることもあります。

 なら、それはそれでよく、そのまま離婚準備に取り掛かればいいと思うかもしれませんが……
 少なからぬトラブルが、ここでも起きているのです。

夫が我が家を勝手に売却!?

 例えば、夫が愛人と別居を開始したとします。今、あなたと娘が住んでいるマンションは夫名義ですが、共働きであるにもかかわらず、夫はローンの支払いに協力してくれていません。もちろん、完済にはほど遠く、まだ10年はかかるでしょう。
 そこで、夫がこのマンションを売却しようとしていたとしたら、どうでしょうか?

 これは非常に厄介です。
 最終的には、このマンションを守りきれないかもしれないからです。

 マンションが夫単独の名義であったとしても、購入にあたってあなたが頭金の一部を出した、または夫の給与からローンへの返済が行われていた場合でも、その分あなたが共働きで家計を助けていた、という事実があれば、マンションはあなたと夫の共有であるといえます。
 しかし、登記簿上は夫一人の名義になっているため、あなたの権利は登記されていませんので、夫は勝手に売却して、買主の名義に移転登記手続することができてしまいます。移転登記を受けた買主に対して、あなたが権利を主張するのは困難です。
 だから、そうなってしまってからでは、遅いのです。

 夫が第三者にマンションを売却する前に、あなたの権利を守るために法的な処置をしておかねばなりません。
 自分の共有持分権があるとして夫に勝手にマンションを処分させない仮処分をとるのも一手です。また、離婚を前提に考えている場合には、財産分与慰謝料請求権を根拠にして、仮処分・仮差押えの申立てもできます。
 あなたが専業主婦で、マンションの購入に際してまったく貢献していない場合は、共有持分権はありませんが、財産分与は受けられるので、後者の方法によるしかないでしょう。

 いずれにせよ、こうしておけば、いきなり追い出されるという事態は回避できます。

最終的には賃貸か、買い取りか

 しかし、夫婦関係がいよいよ破綻して、財産分与が始まる段になると、問題がまた持ち上がってきます。
 両者が離婚に同意した場合、夫はローンの支払いをしなくなり、共有物分割請求をしてくるでしょう。つまり、そのマンションをあなたのものにしたいのなら、夫の持分まで買い取れと、そういう話をしてくるのです。
 財産分与の際に、共有財産として充分な預貯金があったり、あなた個人の財産としてお金が出せる状態なら、それらと引き換えに持分を買い取ることもできるのですが、そういった資金が捻出できない場合は、困ったことになります。

 買い取れないなら、原則として明け渡すしかないのです。
 しかし、それでは行く場所がない、というケースもあるでしょう。

 財産分与でこちらのものにするのは無理でも、なんとか子供と住み続けるためには、夫と交渉して貸借権の設定をしてもらい、住めるようにするしかありません。
 お金を払う賃貸借契約を結ぶか、無償での使用貸借契約を結ぶか、どちらかになるでしょう。子供がいる場合なら、その利益を考えて、夫も譲歩してくれるといいのですが、これも絶対とはいきません。

「認めない。俺を裏切って離婚しようって女のために、どうしてそこまでしてやらなきゃいけないんだ。そこに住みたきゃ買い取れ。じゃなけりゃ出ていけ」

 こう言い放つ夫も、いても不思議ではありません。かつ、離婚というのは戦争も同然ですから、そこには憎悪復讐心もついてきます。
 何の利益にならなくとも、あなたが不幸になるというだけで、夫はあえて交渉に応じないという対応を選ぶことだってあり得るのです。

 こういう場合は、住居を諦めるか、なんとか資金を工面するしかないでしょう。

もともと賃貸なら、住み続けることができる

 また夫名義で借りているアパートに暮らしている場合などは、どうなるでしょうか。
 夫が恨みつらみで借主の名義変更手続に応じなかったり、勝手に賃貸借契約を解約したりした場合には、部屋を空けないといけないのでしょうか?

 これについては、まったく問題なく、出る必要はありません。
 離婚後も住み続けたい場合には、家主との契約書を作り直して、妻名義に変えてもらっておくと安心です。

 もしスムーズに夫が名義変更に応じない場合でも、そもそも賃借人の権利は守られています。
 家族の住居として夫が家を借りた場合、家族の一員である妻も賃借人としての地位をもっているとみなされます。よって夫が勝手に契約を解除しても、家主が妻に明渡しを要求することはできません。
 また、そうするメリットもないでしょう。あなたが家賃を支払い続けている限りにおいては、賃借権譲渡について、家主の暗黙の承諾があったとみなされます。きちんと払うものを払ってさえいれば、トラブルになることは少ないと考えられます。

 蓮沼個人の意見ですが……離婚に際して家を出るのは女性が多いのですが、子供の利益を考えると、できれば引越しはしないで済ませたいものです。
 大人の視点では忘れがちですが、子供は離婚に巻き込まれて、転校まですることになります。すると、今まで付き合いのあった友達とも引き離されて、家族だけでなくこれまで築いた友人関係をも失い、二重に苦しむのです。
 可能なら、住居は確保したいところですね。

財産分与の基準

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