離婚のフローチャート

離婚の戦術

 離婚は、基本的に結婚と同じで、当事者の合意があれば可能です。合意がない場合でも、婚姻が破綻していれば、或いは一方に重大な瑕疵があれば(有責配偶者)、片方だけの申し立てでも、調停や裁判を経て、離婚に至ることができます。
 大きく分けて、離婚の方法には、法的には3通り存在します。

 1.協議離婚
 2.調停離婚
 3.裁判離婚

 基本的には、この3つの手順を踏んでいきます。
 フローチャートを図にすると、下記のような形になります。

離婚の手続きの流れ

ここで決めたい協議離婚

 まず、婚姻関係にある当事者同士の同意だけで実現するのが、協議離婚です。

 離婚しましょう、と申し出て、相手がいいよ、と答えれば、基本的にはそれでおしまいです。
 離婚届を書いて、それを自分達が住んでいる地域か、本籍地の市役所(区役所、または町村役場など)に提出すれば、離婚が即座に成立します。離婚届は365日24時間年中無休で受け付けてもらえて、しかも提出した日が離婚成立日となります。郵送した場合は、市役所に到着した日になります。

 しかし、つい昨日結婚した人が離婚するならいざ知らず、共同生活も二年、三年ともなれば、さまざまなものが共有されています。
 財産分与の問題もありますし、夫の不倫が原因なら慰謝料の請求もしたいところです。そして子供がいるなら、どちらが親権を取るかという話にもなります。これらについては別項を設けて説明しますが、離婚に際しては、そうした問題についても同意を取り、かつその証拠も確保しておかねばなりません。

 そのためには、協議離婚をしかける前に、あなたの側で、法律上はどちらが有利になるかを予め調べておく必要があります。法的にみて、あなたの有利を確保でき、しかも相手に飲ませる理屈を用意しておいてから、一気に切り出すのです。
 そのためには、日頃の準備が欠かせません。夫が会社からいくらもらっていて、どれくらい貯金があるのか、生活費のために家計に入れてくれたのはどこまでなのか。こういった情報は「家庭が円満なうち」でなければ、夫から提供されることはありません。もし、普段から夫がこれらの情報開示を渋っている場合でも、

「なんだか税務署の人に必要だって言われたの」

 と言われたら、秘密にしておくわけにもいかなくなります。ただ、この手を使う場合は、相手の法律知識のレベルを意識しましょう。ヤブヘビになったら元も子もありません。
 いざ、離婚を切り出そうとしていると知れたら、夫は一切の情報開示を避けるでしょう。そうなったら、隠された財産については分与を受けられなくなるかもしれません。
 だから、離婚するつもりがあってもなくても、常に情報を探るようにするべきです。ちょうど、「すぐさま戦争になりそうにないけど、軍備は整えておく」というのと同じようなもので、防衛というのは、ことが起きてからでは間に合わないのです。

 この話し合いで言葉にした約束は、たとえ口約束であろうとも有効なので、ぜひともこっそり録音しておくべきです。あなたの側は仕掛ける側なので、準備を整えて、録音しながら話をできますが、相手は無防備なので、普通は何の記録も取れません。受け答えの準備もできておらず、考えもまとまっていません。
 この有利は初回しか確保されません。次回からは夫も対策を考えてくるでしょう。最初の一撃を、是非とも大切に使っていきたいところです。

 また、「書面にする」「自分でも話し合いの結果をメモにとる」というのは、証拠を残す意味で有効な戦術ですが、相手によっては録音だけで済ませるほうがいい場合もあります。というのも、どんなに間抜けな夫でも、目の前で発言を書き留められたり、自分で念書を書いたりすれば、これが撤回不可能な約束であると自覚するからです。そうなれば、夫はより慎重な態度を選ぶようになるでしょう。
 録音だけで記録をとり、かつそれが夫に気付かれていない場合であれば、うまくすればあなたにとって非常に有利な条件を言わせることができるかもしれません。
 但し、このパターンで攻める場合は、録音機器の性能を確かめておいてください。きれいに音を拾えていないと、証拠として機能しなくなる危険性があります。

 また、録音だけで記録したものについては、後日、文書化する必要があります。
 法律家などのいる場所で、録音という証拠を突きつけつつ、正式な文書にしましょう。その上で、公証役場の公証人に依頼して、「公正証書」の形式をとりましょう。それだけでなく、「債務不履行の場合には強制執行してもいい」という内容の文言を入れた「執行認諾文言付公正証書」にしておけば、裁判の判決と同じ強制力を持つので、あとあと何かあっても安心です。

 ただ、離婚という敵対的な提案を素直に受け入れる人は、なかなかいません。あれこれまくしたてられると、それが自分にとって有利か不利かもわからずに、とにかく抵抗するのが人というものです。

 あなたは法的にみて、あなたにとってのベストシナリオを考えて離婚案をぶつけるわけですが、それが完璧に受け入れられるとは思わないでください。そもそも、あなたが何を言っても受け入れてくれるような聞き分けのいい夫であれば、離婚する必要もなかったはずです。
 だから、相手に突きつける要求のうち、絶対に外せないものと、妥協できるものとを予め区別しておくべきです。多少、不満があっても、まだ自分の取り分が多いところで相手が頷いたなら、この後の調停や裁判といった「延長戦」に雪崩れ込むより、ずっと離婚のコストが小さくなるからです。

 もう一つ。相手が余程用意周到だとか、法律知識があるとかでもない限り、あなたが事前に調べてきた条件を見ても、それが妥当なのか、著しく自分に不利なのか、むしろ譲歩されているのか、区別がつきません。もちろん、離婚という提案自体がネガティブなものなので、あなたの提示した条件はどれもこれもあなた有利のものと考えるでしょう。
 よって、合意を引き出すには、なんらかテクニックを使う必要があります。その一つが、選択肢です。

「これこれの場合、取り分は法的に判断すると半分ずつだから、私が受け取る分はこの家と貯金のこれだけで、あなたはそれ以外になるのが普通。だけどあなたがこの家にこだわるなら、あなたが私に財産分与する貯金はいくらになる。どっちがいい?」

 AとB、どちらにしてもいいのだと、一見すると相手に主導権を明け渡しているようにもみえます。しかし、これを聞かされた側は、AかBしか選べなくなることが多いのです。
 本当は選んで欲しくないC案に気付かれる前に、なんとか「じゃあBで」と言わせたいところです。

 なお、何を確認する・約束させるかのチェックリストですが、大雑把にこんな感じです。

 『子供の親権問題』
 ・どちらが引き取るか
 ・どちらが親権を取るか
 ・養育費の金額と支払い方法
 ・面会交渉はどうするか

 『戸籍と姓』
 ・離婚後に名乗る姓は旧姓にするか、離婚前のままにするか
 ・子供の姓と戸籍はどうするか

 『財産分与と慰謝料』
 ・結婚期間中に築いた財産をどう分配するか(財産分与)
 ・住宅ローンや借金はどう清算するか
 ・離婚の原因を作った夫(不貞行為など)に対する慰謝料
 ・離婚の原意を作った家庭外の人(浮気相手など)に対する慰謝料
 ・別居中(離婚が片付くまで)の生活費=婚姻費用の請求
 ・弁護士や調査会社に依頼をする際の費用負担

 それから、仕掛けるタイミングですが「イヤな時」を狙うのも手です。
 寝る直前、明日は朝から重要な会議、疲れている……そんな状態のところを逃さず襲撃するのです。

 当然、そんなことをされたら「俺はもう眠いから、話は明日にしよう」と言ってくるでしょう。でも、わざとこの状態のところを狙っているのですから、それを許してはなりません。絶対に今夜、返事をして欲しいと迫るのです。寝ようとしても寝かせない、ずっとプレッシャーをかけ続けて、しまいに面倒になって仕方なく返事をするところまで追い詰めるのです。
 ただ、これも相手次第です。本当に虫の居所が悪い場合、手が出る場合もあります。そして真夜中であれば、あなたが特別に手配しておいたのでもない限り、周囲に他の人はいません。逆上した夫にくびり殺されてはたまりませんから、心配なら誰か仲間を用意しましょう。

 できれば、こちらから離婚を切り出してから回答を得るまでに、時間も休憩も与えたくないのです。
 ゆっくり眠って頭がスッキリした状態で、かつ時間の余裕があれば、夫は対策を考え始めます。今はインターネットで法律相談も読み放題ですし、昼休みにどこかの法律事務所に駆け込んで相談するかもしれません。そうでなくても、昼食を食べながら同僚に意見を求めたりするでしょう。

 夫が知識、情報、仲間を集めだすのを阻止する意味でも、その場で回答を得たいのです。
 それらのものがあればあるほど、あなたも夫も正常な判断を下せるようになります。あなたは正常な判断をしたいのですが、夫にはさせたくありません。
 しかし、最悪の場合、その場で回答を得られなかった場合には、せめて期限を切りましょう。毎日のように答えを要求し、うるさがらせましょう。

 裏を返すと、あなたが夫から離婚を切り出された場合には、予期していなかったのであれば、とにかく「わからない」「理解できない」「時間をちょうだい」を連呼して、回答を引き延ばすのが、まずすべきこととなります。
 夫は最初の一撃で情報を並べてしまいました。それらを持ち帰って、法律家や知人のアドバイスをもらうのです。

 協議離婚は、離婚全体のうちでも大多数を占めています。およそ八割はこれで片付きます。
 大半の離婚は、調停や裁判にいく前に決着がつくのです。なぜなら、それが一番、互いに取っての傷が浅くて済むからです。

 蓮沼としても、離婚を目指す女性の皆様には、ぜひともここで決着をつけていただきたいと考えています。

 なるべく最初の一撃で、敵を葬り去ること。
 戦闘能力と意欲を挫いて、抵抗をやめさせること。
 あなたの健闘を祈ります。

調停

 協議離婚で勝利を収めることができなかった場合、次の段階に移らざるを得ません。それが調停です。
 離婚裁判では、「調停前置主義」といって、必ず調停を経てから離婚に至るというルールがあります。

 調停の申し立ては、弁護士に依頼しなくても、自分でできます。家庭裁判所に行って、書き方を教わりながら書けばいいのです。

 申し立てから1~2週間後に、夫婦それぞれに、裁判所から1回目の調停期日を記した呼び出し状が届きます。呼び出されるのは、だいたい申し立ての一ヶ月後くらいで、平日の昼間になります。
 どうしても当日の出席が難しい場合には、期日変更申請書を提出してください。無断で出席を拒んでいると、5万円の過料(罰金)を科されることもあります。

 実際の調停は2時間程度です。男女二人の調停委員が、当事者であるあなたと夫から、交互に事情を聞いてくれます。家庭裁判所には調停室という小部屋があり、そこで普通は夫婦一緒に調停の進行について説明を聞かされます。ただ、相手が暴力を振るう夫だったりすると、それも難しいので、希望すれば別々にということもできます。
 調停成立の際には、この小部屋に審判官と調停委員二名、書記官、夫婦とその代理人まで合わせると、八名までの人が集まることになります。

 調停の際には、あなたの事情を説明する時間が与えられます。概ね30分ほどですが、絶対にその時間内に済ませなければいけないとか、逆に時間いっぱいは話さなければいけないということもありません。もし、自分の言いたいことがたくさんあって、一度に話しきれないと思ったら、事前に離婚に至る経緯などを書いた陳述書などを用意しておき、申立書と一緒に提出しておけば、調停委員が事前に目を通してくれます。
 調停に出向く際には、自分が持っている材料を正確に伝える必要があります。発言内容に矛盾があったりすると、マイナスの印象になります。つまり、自分がこのように不利益を受けていて、その証拠はこれですと、順序だてて説明することが求められます。
 逆に、人間性を疑われるような態度は、なるべく避けたほうがいいでしょう。情に訴えるというのも、あまりお勧めできません。親身になって話を聞いてくれはしますが、根拠のない訴えを真に受けることはないからです。

 こうした調停が、だいたい一ヶ月おきくらいに繰り返されます。だいたい半年から一年ほど経つ頃には、離婚が成立するのが普通です。

 素人でなんとかなるのは、この調停まででしょう。調停に至るまでに既に離婚希望者の八割が協議離婚しているわけですが、残った二割のうちの六割が、この調停で決着をつけます。
 ここで納得できる条件が得られなければ、訴訟に進むしかなくなります。

裁判離婚

 調停が不成立の場合には、申し立てた側、つまり離婚を希望する側が調停不成立証明書を提出しなければなりません。
 その上で訴訟を始めるわけですが、いくらインターネット上にある知識を掻き集めて挑んでみたところで、やはり素人には厳しいものがあります。ここから先の離婚には、やはり弁護士も必要になってきます。
 訴状に始まり、答弁書や陳述書なども用意しなければなりませんし、証拠集めも必要です。熟練の離婚弁護士なら、何をどうすれば有利になるかをよく知っているので、あなたに適切な指示もしてくれるでしょう。この点も見逃せません。

 実際、私の知人が離婚騒ぎを起こした時にも、弁護士のアドバイスが有効でした。

 彼女はとにかく、妊娠中に浮気をした夫に復讐したい一心で、「離婚する」「浮気の慰謝料を取る」ということを強く希望していました。ですが弁護士は、それがあまり本人にとって利益にならないと判断して、別の提案をしました。離婚ではなく別居、浮気の慰謝料は諦めるが、暴力の証拠はあるので、そちらで取る、という方針です。
 彼女は怒りが先立っていたので、しっかり証拠集めをせずに離婚の口火を切ってしまったのです。それに、浮気を理由に離婚することが可能だったとしても、それで取れる慰謝料はたかだか三百万円程度しかありません。しかし、彼女は生まれたばかりの娘を抱えて、この先ずっと長い人生を、一人で生き抜いていかねばならないのです。であれば、別居しながら婚姻費用を請求し続けたほうが、当面の生活を支える上では有利であろうと判断したのです。

 実際に裁判に踏み切った場合、訴訟の後に、まず「和解」が提示されます。
 双方の主張や証拠に目を通し、検討した裁判官が、和解案を示すのです。この辺りで手を打つのが妥当ではないか、という提案です。ただ、これは協議離婚や調停とは違い、拒否してもすぐ後に判決が下される性質のものです。その意味では、和解案そのものに強制力はなくとも、これを拒否することに大きなメリットはないと思ったほうがいいです。
 訴訟に進んだ離婚のうち、半数以上はこの和解の段階で手を引きます。

弁護士への報酬の支払い方はいろいろ

 ところで、裁判のために弁護士を雇うとなると、やはりそれなりの金額がかかります。

 まず、書類作成料。一枚一万円とか、べらぼうな金額を取られます。
 次に顧問料。一ヶ月三万円とか、これまた安くない金額になります。
 実費。交通費などがかかりますが、こういうものも依頼人が負担します。

 これら以外に、報酬が定められます。
 大きくは「成功報酬型」か、「時間給型」かに分かれます。

 成功報酬型なら、着手金と報酬というものが必要です。
 着手金は、事件受任の時に受け取るお金です。報酬は、勝訴した場合に支払うものなので、全面敗訴となった場合には、必要なくなります。
 着手金の相場としては、この離婚であなたが得る利益のうちの、5~10%程度となります。やっぱり安くありません。
 なお、上記の書類作成料や顧問料については、着手金の中に含まれるケースもあるようです。

 時間給型なら、打ち合わせや書面の作成に応じて費用を支払います。
 なので、やはり上記の書類作成料や顧問料について最初から含まれているケースがあります。
 公的事務所や弁護士会館などでは、30分5000円(+消費税)程度だったりします。
 もちろん、力量のある弁護士なら、もっと多額の報酬を要求することもあります。

 だいたいの目安でいうと、数十万円から百万円くらいは離婚裁判にかかると思ってください。
 但し、裁判が長期化し、控訴を重ねて最高裁まで争ったりすると、かかる費用はどんどん膨らんでいきます。

 このような事情を勘案すると、やはり協議離婚の段階で決着をつけたいものですね。
 ただ、協議離婚で終わらせる場合にも、裁判で勝てるだけの準備をするべきです。むしろその準備がしっかりしていればこそ、相手に争う手がかりを失わせることができ、短期間での勝利を得られるのです。

 以上が離婚の流れです。

夫の側の防衛戦術

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