離婚の原因:モラル・ハラスメント

離婚の原因・理由

 大きな怪我をするような事件があった場合、証拠さえ残せば離婚は容易です。また、目に見える形で暴言が繰り返されたなら、それを記録にとっておけば、これも離婚に役立つでしょう。
 ですが、こういう場合はどうでしょうか?

 朝、定年退職した夫がやっと起きてきた。
 朝食を目の前に並べてあげると、ものすごくイヤそうな顔をして溜息。何かあるわけでもないのに「チッ」と舌打ち。「何かあったの」などと尋ねると「別に」とボソッと言うだけ。しかも、私の顔を睨みつけながら。
 少し変わった料理を作って出すと、夫は私に尋ねる。

「これ、材料なに? ……へぇ、高いね。よくそんなもの、作ろうと思ったね」

 普通にスーパーで売っていたものを買って作っただけなのに。嫌いならもう出さないけど

「別に食べたくないなんて言ってないだろう? ねえ、君、どうしていつも、そうやって早とちりするのかな」

 食べたいものがあるならはっきり言ってくれればいいのに。

「僕がいちいち言わなくても、君も大人なんだから、普通にこれくらいこなせるだろう?」

 というか、自分で作ればいいのに。

「僕にやらせてくれなんて言った? っていうかさ、なに君一人でヒートアップしてるのさ。朝から疲れるよ。やめてくれないかな」

 こう言われては、なんと返したらいいかわからない。

「まったく……やっと退職してゆっくりできると思ったらこれだもんなぁ」
「どういう意味ですか」
「いやぁ、なに、息子達にも、ちゃんと相手は選べって言っておいてよかったよ」
「私を選んだのはあなたでしょうに」
「僕が間違えただなんて、一言も言ってないけどな」

 ああ言えばこう言う。そして、私が言葉に詰まると、冷笑を浴びせてくる。
 これが毎日毎日続く。気が滅入ってしまう。

 いわゆるモラル・ハラスメント(モラハラ)というものです。
 何か気に入らないことがあるなら、ハッキリ言ってくれればいいのです。ところが、わざとそうはせずに、不機嫌な態度をしてみせる。するとあなたは不安になり、何がいけないのかと戸惑って、逆に自分に不満があっても言い出せなくなります。そういう心理状態に追い込んで、妻を支配しようとする……それこそ

 ネチネチネチネチネチネチネチネチネチネチ

 こういうくだらないことで人の精神を逆撫でし続ける。
 モラハラ夫とは、そういう存在です。

モラハラ夫の生態

 モラハラと一言でくくっても、その内実はいろいろです。
 明確に妻を支配しようと意識している場合もあれば、単に自分の中の劣等感に突き動かされて、自分より弱い相手を探していたぶっているだけのこともあります。或いは、自分に自信がないために、相手を束縛して、それによって安心感を得ようとしているのかもしれません。

 厄介なのは、この手のモラハラ夫は、第三者がパッと見て、すぐにわかるような悪事を働かないことです。殴ったり、物を壊したりという、すぐに検証できそうな、証拠の残ることをしません。大声で怒鳴りつけるようなモラハラ夫もいて、そういうのは録音しておけば後々証拠にできますが、上記の例のようなネチネチしたやり口だと、言葉の文字面だけ拾っても、これがモラハラだと断ずるには材料不足ということになりがちです。
 例えば、

「これ、材料なに? ……へぇ、高いね。よくそんなもの、作ろうと思ったね」

 料理の材料を聞いて、そんな高い材料をよく使う気になったものだと言っています。でも、食材が高いか安いかなんて当人の主観ですから、その料理を「高い」と思い、それを口に出したこと自体を責めるわけにもいきません。
 上記の例でも

「別に食べたくないなんて言ってないだろう? ねえ、君、どうしていつも、そうやって早とちりするのかな」

 というように、うまいこと妻の失言であるかのように話をすり替えています。
 こうやってパートナーの精神をすり減らし、追い詰めて、果ては服従させようというのが、モラハラ夫の生態なのです。

立証の難しさ

 しかしこういうモラハラ夫を退治して、うまく離婚に持ち込むのは、なかなか大変なのです。
 もし、上記の会話を録音しておいて、法廷に持ち込んだら、どうなるでしょうか?

「ちょっと待ってくださいよ。僕だって虫の居所の悪い日くらいありますよ。たった一度、不機嫌だったところの録音があるからって、どうして僕が全否定されなくちゃいけないんですか」
「いいですか、僕は妻と結婚してから三十年、それはもう、真面目に会社で働いてきたんです。家にお金も入れてきましたし、ギャンブルや女遊びもしていない。それがちょっと不機嫌だっただけで、どうしてすぐ家を追い出されなくちゃいけないんですか」

 いや、毎日毎日あんな感じだったじゃないか、と言っても無駄です。

「証拠は? あるんですか。そうじゃない、そういうことじゃない……妻はもう、新たにお金を稼いでこない僕に興味がなくなったのかもしれないな、悲しいけど」

 言いそうでしょう?
 でも、裁判所としては「客観的証拠」を重視しますから、モラハラ夫が事実、三十年間一つの会社に勤め続けたこと、給料をちゃんと家計に入れていたこと、少なくとも目立つほどギャンブルや夜遊びなどで浪費をしていないことなどは無視できません。
 夫婦間のちょっとした言い争いくらいで、いちいち離婚なんかしていたら、キリがないからです。だから、モラハラの深刻さがなかなか伝わりません。もしくは、伝わっていたとしても、法の上での裁きという建前がある以上、どうしようもありません。

 では、どう対策すればいいのでしょうか?

 一つには、常軌を逸したタイミングを見逃さない、ということです。
 モラハラ夫は、常識の範囲では到底受け入れられない要求を飲ませようとする存在です。対等なパートナーとしての付き合いではなく、奴隷と主人という関係性を求めているのです。そして、相手から服従の印を引き出そうと必死になります。
 だから、例えばこんなことを言い出したりします。

「これから外出する時は、一週間前には僕に許可を取ること。たとえそれが近所のスーパーでもだ。帰宅予定時刻までにはちゃんと家にいること。それから、連続して一時間以上の外出は認めない。誰と会ってどんな話をしたかも、ちゃんと報告しなさい。あと、買い物の場合は、一度に三千円以上の決済もダメだ。必ず領収書はもらってくるように。もしそれを越えて時間やお金がかかる場合には、僕も同行するから、勝手なことをしてはいけないよ」

 恐ろしい束縛ですね。

 しかし、こういう異常な要求をされた時こそがチャンスなのです。これを録音、録画しておけば、モラハラの明確な証拠になり得ます。他にも、メールや紙での文書など、形に残るもので指令が届けられた場合には、逃さず記録しておいてください。

 また、証拠としての価値は若干落ちますが、日常の会話もなるべく記録してください。いつものネチネチをすべて音声データで取っておくのは難しいので、その場合は日記をつけるといいでしょう。毎日毎日、丁寧に記録をつけておけば、後から創作したとは考えにくくなります。
 こっそりネットに接続できるなら、ブログの形式で書き綴ってもいいでしょう。一般人が過去に遡った日付でブログ記事を追加するなんて考えにくいですから、登校された日時に、その時点から遠くない体験を記録したと判断してもらえます。

決着のつけ方

 ただ言うまでもありませんが、こういった記録は絶対に夫に発見されないようにすべきです。
 また、充分な証拠がたまるまでの長期戦になるので、心身をやられないよう、うまく自分を守ってください。別項でも説明しますが、離婚は心身を消耗する戦争なので、休める場所と頼れる仲間がいたほうがいいのです。

 充分なデータが出揃ったら、あとはそれを持って弁護士その他に相談する、という流れになります。
 もちろん、私、蓮沼も、そうした場合にはご相談を受け付けます。モラハラ夫は外面はいいので、証拠さえ出揃えば、離婚代行サービスのご利用には適している相手です。

 もう一つの作戦は、物理的に逃げるという方法です。
 他のケースでも説明しているように、別居はかなり有用性が高い手段です。有責配偶者であるかどうかを問わず、婚姻を破綻させることができるからです。共同生活をしていないのだから、原因がどちらにあるにせよ、もはやこの婚姻は無意味になった、という理屈です。
 充分な証拠を集めてのモラハラ夫退治と違って、こちらの方法では慰謝料も取れませんが、精神衛生上、楽になるのが早いかもしれません。

 どちらがいいかは、よく考えて選んでください。

離婚の原因:浪費、無駄遣い、ギャンブル

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