離婚の原因:セックスレス、性の不一致

離婚の原因・理由

 いきなりですが、海の向こうのイスラム圏では、イスラム法が日常生活を過ごす上での法律としても機能しています。そういった国々では、男は四人まで妻を持つことが許されていたりもします。但し、そこには条件がついていて、「どの妻も平等に扱うこと」「性的にも満足させること」が男の側に課せられているというのです。
 これは当然、妻が一人しかいなくても適用されるルールです。夫は妻を満足させる義務があるのです。
 というわけで、これを読んでいるあなた。今、あなたと夫の間には、性交渉はありますでしょうか?

 性交渉は、誰に強制されるものでもありません。従って、あなたが希望せず、夫も特に望んでいない場合には、なくてもまったく差し支えないものです。
 しかし、あなたが望んでいるのに夫が何もしようとしないのは、大問題です。ことに女性は、自分からは言い出しにくいこともあり、余計に欲求不満を抱え込みやすいものです。本来なら、何も言わなくても夫から、そうした欲求に応え、満足させるというのが筋というものです。
 一方、女性の側が性行為を望んでいない場合もあります。もともと好きでもない、まったく快感をおぼえない、痛みしかない……そういうこともあります。たいていの場合、それは男の側の扱い方が悪いせいなので、女性の側の体に問題があるわけではありません。ただ、とにかく女性が希望していないのであれば、性交渉はあってはなりません。もし無理して行為に及ぶとすれば、夫婦であろうとも、それはれっきとした強姦です。女性は男の性欲解消の道具ではないのです。

婚姻にはセックスも含まれる

 他のところでも引用しましたが、最高裁における婚姻の定義について判示を再度掲載します。

『婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにある』

昭和62年9月2日大法廷判決・判例時報一二四三号

 心だけではなく、肉体的にも結合を目的としていなければならないのです。
 よって婚姻には、セックスも含まれると考えられています。

「婚姻が男女の精神的・肉体的結合であり、そこにおける性関係の重要性に鑑みれば、病気や老齢などの理由から性関係を重視しない当事者間の合意があるような特段の事情のない限り、婚姻後長年にわたり性交渉のないことは、原則として婚姻を継続し難い重大な事由に該るというべきである」

昭和62年5月12日 京都地判・判例時報一二五九号九二頁

 従って、あなたが希望しているのに、相手が性交渉に応じようとしない状況が長く続いた場合には、これはもう離婚の条件を満たしたといえるのです。
 必ずしも性交渉の有無だけが判断されるわけではありません。あくまで婚姻が「破綻」しているか否かが争点となります。家庭生活が成り立たなくなるような問題であると判断された場合に、離婚が認められるのです。
 なお、性交渉を拒否されている側が慰謝料を受け取ることができた例もあります。

 ただ、ここに示されているように「病気や老齢などの理由から性関係を重視しない当事者間の合意」がある場合には、性交渉のないことは離婚の理由になり得ません。例えば、夫が去年から難病に苦しんでいて一年間ずっと入院している、というような状況では、いくらあなたが欲求不満だからといって、これを離婚の原因とするのには無理があります。
 アメリカに単身赴任していて、一年に一度しか帰国できないといった場合も同じです。夫の単身赴任を認め、自ら同行しなかったのだから、性交渉がないことについても当然に同意したと看做されてしまうのです。

あなたが原因のレスだったら

 では、逆だったらどうでしょうか?
 意外と少なくないのですが、女性の側がもともとセックスを望んでおらず、夫だけが希望しているという状況です。

 この私、蓮沼の知り合いの夫婦なんかはまさにそれで、奥さんの側はまったく好きではないんですね。ところが夫のほうは性欲をもてあましていて、毎日のように早朝にシャワーを浴びに行って、自分で処理していたといいます。書いていて気持ち悪くなりますが……
 何度も述べているように、女性は男の性欲処理の道具ではありません。だから、原則としては、したくなければしなくていいのですが、あまり長期にわたると、理不尽ではありますが、これも婚姻が破綻していると看做されてしまうんですね。
 ですが、この女性の場合、夫の収入が非常に大きかったのです。専業主婦でも楽々生活できるくらいで、それは手放したくない。こういう場合、どうすればいいでしょうか?

 それは、ここまでに述べられたことを応用すればいいのです。
 婚姻が破綻していなければ、離婚は認められません。つまり、妻が性交渉できない病気であるとか、夫が遠方にいたり多忙だったりして機会がないとなれば、それはやむを得ない事情なので、性交渉なしでも婚姻は持続していると判断されます。

 なお、この夫婦の場合は、奥さんがうまくやりました。
 四十代に差し掛かっても、まだ二十代の若者並みに性欲をもてあましていた夫です。早晩、「外」で処理するようになるのは目に見えていました。そのためのお金もあったのですから。
 不倫という不祥事を起こした夫は、もはや有責配偶者です。婚姻が破綻がしない限り、つまり長期間の別居をするとかでないと、彼の側から離婚を申し立てることはできません。彼女はあえて婚姻を継続することで、利益を確保しました。

男は電信柱

 ところで、夫がセックスしたがらないという状況になったら、あなたが欲求不満かどうかを別としても、一度疑ってかかるべきです。

 昔から「男は電信柱」と言われてきました。そのココロは「家の中では立たないが、外ではいくらでも立っている」ということです。
 あなたに魅力がないわけではないにせよ、とにかく男というのはもともと浮気性で、どうしようもないところがあるのです。だから家の中では「元気がない」「できない」などと言いながら、家の外では、それこそもうどこがいいのかわからないような相手であっても、電信柱が立派に役立ってしまうのです。
 それだけ好色でありながら、男のこの手の体力は無尽蔵ではありません。一部には例外もいるようですが、一日に三度も四度もこなせるような男は、ほとんどいません。昔の中国の説話集なんかを読むと「一度行為をしたら三日は休まないといけない」などと書いてあったりもするくらい、消耗するのです。案外ヤワですよね。女性は回数をこなしても耐えられるのですが……
 というわけで、外で「働いてきた」から、うちでは「元気がない」ということが少なくないのです。

 あなたが欲求不満であれば気付きやすいのですが、たまたま淡白な女性と、浮気男が一緒だった場合、円満な状態が長く続いてきたにもかかわらず、いきなり夫の側から、明確な理由もなしに「離婚しよう」と言ってくることがあります。
 思い当たるところがなければ、電信柱のせいかもしれません。他所に付き合っている女性がいないか、調べてみる価値はあります。

 →離婚の原因:不貞行為

夫が同性愛者だったら

 また、セックスレスの事例の中には、稀に夫がホモセクシャルというケースもあるようです。
 特に日本では、同性愛者が市民権を得ていないこともあり、そういう男性は好きでもないのに女性と結婚して「アリバイ工作」をします。そういう結婚なので、当然ながらセックスはないか、あっても回数はごく僅か。ほとんどの精力は、家の外の男性向け電信柱によって消費されます。
 これは「不貞行為」ではないか、と思うかもしれませんが、どうも従来の判例を見る限り、女性相手の浮気、不倫とは別枠として処理されることが多いようです。それでも、妻以外の誰かとの性的関係を前提としての結婚ですから、これは婚姻を継続し難い重大な事由に相当します。離婚しようと思えば、難しくはないでしょう。
 ただ、これはかなりの特殊ケースです。また、夫がそういうつもりで結婚した以上、負い目もあります。他の面で誠実なら、家庭に対する義務も果たしてくれるでしょうし、性生活以外に何の問題もないのなら、相手の弱みを握ったまま婚姻を継続して、夫の同意の下、自分も自由恋愛を楽しむ、というのもありでしょう。
 そこまでする場合は、逆にそれが弱みにならないよう、ちゃんと証拠は残しておきましょう。いずれにせよ、そこまでいってしまったら、その婚姻は既にして脆弱です。いつ壊れてもおかしくないということは、意識しておくべきです。

離婚の原因:病気、精神病、認知症

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