離婚の原因:協力義務違反

離婚の原因・理由

 2019年6月30日、衝撃的な事件が起きました。

 横浜市金沢区にて、いきなり家から男が飛び出しました。首から血を流しながら、すぐに倒れこみました。
 刺したのは、でした。生後二ヶ月の子供がいて、育児に悩んでいたそうです。それでつい、休日に昼寝していた夫を刺してしまったとのこと。
 殺人未遂で現行犯逮捕されてしまったようですが、身につまされる事件です。

「ウチの旦那なんて、とっとと離婚してやりたいわ!」

 今日も全国津々浦々、女性のこうした声が絶えることはありません。
 その理由の多くは「非協力的な夫」にあります。

「全然家事をしてくれない。掃除もしないし、食事も作らない」
「食器を洗ったり、ゴミ出ししてるだけで『やった』気になってるのがムカつく」
「子供のことも放置、下の子のオムツも変えないし、上の子と遊んであげてるのも私だし」
「何やってるかって、ずーっとテレビ見てんのよ、あの野郎」
「ウチなんかずーっとスマホゲーム、ホントなにやってんのよ」

 といった感じです。

 そんなザマでもとにかく形だけでも、とやらせてみると……これはこれでひどかったりするのです。
 それまでちゃんと家事をした経験がないと、料理の塩加減ひとつとっても、まともにできません。この私、蓮沼自身の経験で恐縮ですが、塩辛くて食べられない野菜スープに「隠し味」とかいって、まったく調和していないレモン汁がぶちこまれていた時には、食事を残したことがあります。でも何よりゲンナリさせられたのは、その時の「俺、やったよ!」というあの顔でした。
 洗濯物のシワも伸ばさず適当に引っかけておくだけだったり。部屋の中にホコリが浮いていても「週末にやればいいや」と平気だったり。まったくどうなっているのでしょう。

 類例を列挙するだけで日が暮れてしまうので、ほどほどにしておきますが、どうもこういう方面では、一般に男性はまったくダメなことが多いですね。意欲もなければ能力もない。せっかく教えてあげても、ろくに成長もしない。気がついたら夫じゃなくて、長男……長男ではないですね……
 許しがたいのは「家事を手伝う」という発言そのものです。手伝うってなんですか。あなたがやることではないですか、と。
 挙句の果てには、「俺のが稼ぎは多く家に入れてるんだから、その分、家事分担も少なくていいくらいだ」などとのたまう始末。開き直りもほどほどにして欲しいものです。

協力義務違反

 で、こういう「家事育児に協力しない」という状況を「協力義務違反」(民法七五二条)といいます。
 あまりにも非協力的な夫は、婚姻を継続し難い重大な理由があるとして、離婚することができるのです。

 ただ、これを理由に離婚したい女性は、それこそ石を投げれば当たるほどいるのですが、認められるためのハードルが、結構高かったりするのが現実です。
 料理が下手、掃除が雑、という程度では、少し難しいのです。それでも充分、足手纏いなので、裁判所はゴーサインを出してくれないかと思うのですが、形として夫が料理や掃除をしている以上、協力義務に違反しているとまではいえないと解釈されてしまうのです。
 なので、中途半端にゴミ出しだけ、食器洗いだけ、というのでも、今の日本では許されてしまうのです。

 これを理由に認められたケースとしては、例えば……

「共働きなのに、夫がまったく家事をしない」

 というくらいに明瞭明確な状況が必要です。
 では、専業主婦には使えない理由なのか、というと、そうとも限りません。

「病気で寝込んでいる時に、夫は食事の世話もしてくれなかった」

 というのは、専業主婦でも使える離婚原因です。

 ただ、これを理由に離婚に踏み切る場合、どうも理由としては弱いと見られがちなのか、夫が反省している様子を調停や裁判で見せたりすると、こちらの言い分が通らなかったりします。どんなにひどくて、矯正の見込みがいかに薄いかを知らしめる必要があります。

 というのも、日本では「専業主婦が認められている」という弱みがあるからです。
 海外では、妻が働かないことは離婚の理由になります。日本では、夫が家庭に稼ぎを入れないことは離婚の理由にできますが、妻が働かないことは必ずしも理由として機能しません。つまり、専業主婦が「夫が家事をしないから協力義務違反だ」と訴えても「あなたは専業主婦でしょ? なら、夫は専業労働者なんだから、家事をしなくたっていいじゃない」ということになってしまうのです。
 理屈としてはそうなのですが、それは家事を軽く見ているから言えることです。仕事には定時も休日もありますが、家事にはありません。妻が専業主婦でも、本当のところ、夫が家事育児をサボっていい理由になど、なってはならないのです。
 ただ、世の中……というか裁判所の判断基準としては、まだまだ意識としてずっと遅れている点を弁えておく必要があります。

 結局のところ、家庭生活が破綻しているかどうかがポイントになりますので、夫の協力義務違反が家庭を破綻させた結果が明確に見て取れれば、裁判所も離婚を認めてくれます。
 やはりここでも別居は有効な手段となるのです。

 まだまだ司法は全然世の中に追いついていませんが、世の中の夫は、本文冒頭の事件を心に留めて、家事育児を妻に押し付けるのは死罪にも相当する重罪であるということをよくよく理解しておくべきですね。

離婚の原因:セックスレス、性の不一致

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