離婚の原因:病気、精神病、認知症

離婚の原因・理由

 結婚生活では、アテが外れることがよくあります。
 しかし、その中でも最も苦しいものの一つが、夫の認知症ではないでしょうか?

 幸運にも、それまで仲良くやってきた夫婦が、急にうまくいかなくなるのです。

 例えば、夫に買い物を頼んだのに、何しに外に出たのかを忘れてしまうとか。言いつけた品物が二十もあれば、一つや二つは忘れるのが当たり前ですが、認知症になると、買い物に出かけた事実そのものが抜け落ちてしまいます。
 だから、同じことを何度もしますし、尋ねてきます。朝ごはんはまだか、といった具合で。また、記憶と記憶の繋がりが希薄になるため、一人で外出させると道に迷いやすくなります。
 それだけならまだしも、感情の制御も緩くなり、その起伏が激しくなります。急に怒り出したり、落ち込んだりします。そして、それまで大切にしていた趣味などに、急に無関心になったりもします。

 これが進行すると、部屋が散らかりだすようになります。不安ゆえに何かを探し始めるのですが、物を収納しておいた場所は忘れているので、いつまで経っても見つけられません。
 また、やりかけたことも忘れてしまいます。だから、部屋を散らかしても、何のために散らかしたのか、どういう状態に復帰させるべきかもイメージできなくなります。
 瞬間的な何かの思いで外出するものの、すぐに自分の位置を見失うため、徘徊するようになります。

 これを、まだしゃんとしている奥さんが面倒見なければならないのです。しかも、その奥さんのことも、夫は認識できないという……
 若くて体力のある介護者でさえ、認知症患者の相手には疲労困憊してしまいます。これが熟年女性だったら、どんなに大変でしょうか。

 こんなはずじゃなかった、という老後になってしまうのです。

認知症も離婚の理由になる

 実は、配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない場合(民法七七○条一項四号)には、離婚が認められます。

 夫は、結婚当初から人に打ち解けない性格でしたが、ときどき妄想があるようになり、仕事も辞め、五年後には統合失調症と診断されて入院しました。医者からは治る見込みはないと言われています。
 夫の両親は既に亡くなっており、頼れる親戚もいません。私の収入は多くなく、自分の生活を維持するのがようやくです。
 夫婦としての意味が何もないので離婚したいのですが、認められるでしょうか?

 何度も何度も確認しますが、最高裁の考える婚姻とは、次のようなものです。

『婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにある』

昭和62年9月2日 大法廷判決・判例時報一二四三号

 つまり、精神的結合がなくなったら、婚姻は破綻するのです。
 そして、夫が妻を妻として認識できなくなったなら、そこには夫婦愛も何もあったものではありません。よって、婚姻の解消が可能となるのです。

 但し、両手離しでいきなり放り出せるわけではありません。
 最高裁は、次のように定めています。

『病者の今後の療養、生活等についてできる限りの具体的方途を講じ、ある程度前途にそのほうとの見込みのついたこと』

最高裁判示 昭和33年7月25日 判例時報一五六号八頁

 つまり、右も左もわからなくなった夫を路上に放り出すような形では、始末してはならないとしているのです。
 では、結局、一生面倒を見なくてはいけない? それでは意味がないですし、変な夫と結婚した時点で人生終了になってしまうので、実質的な条件はかなり緩和されました。

 具体的には、精神病者が生活保護を受けられるようになるまで、入院費や医療費の一部を支払うこと、財産分与としてできる限りの負担をすることによって、離婚が可能です。
 これだって小さくはない負担ではありますが、それをしないと一生、夫を抱え込むことになります。しかも、相手はあなたのことがわからないので、感謝の言葉すら返ってこないのです。

 但し、そうした重度の精神病患者というのは、いわゆる「禁治産者」……今で言うところの成年被後見人です。つまり、自分で判断して、離婚を認める能力がないとされています。結婚、離婚はどちらも当人の承認があって成立するものですが、そもそも自分で婚姻の維持ができない認識能力しか有していないことが離婚の理由なので、これでは堂々巡りですね。
 そこでまず、医師の鑑定をもらいます。本人が「事理を弁識する能力を欠く常況」(民法七条)にあると認められれば、後見開始決定を得ることができ、成年後見人を選任することができるようになります。この後見人を被告にして、離婚請求をするのです。そうなれば、あとは判決をもらうだけです。

条件は「理解力喪失」

 では、どの程度の症状であれば、離婚の条件として適当なのでしょうか?
 実は、これを理由にする場合、むしろ深刻な家庭破綻の原因になりそうなアルコール中毒は含まれないのです。

 条件が「事理を弁識する能力を欠く常況」ということなので、夫はもう、何が起きているかも認識できず、理解もできない状態でなければなりません。あなたを見て「妻だ」とわかる場合、意思決定能力を有している状態では、条件を満たしてはいません。
 だから、

「俺はうつ病だ、もう世界が真っ黒に見える、陽子、俺はもう、オシマイだ……!」

 などと言いながら壁際にうずくまっていても、この夫はあなたのことを「妻の陽子」と認識できているので、この理由では処分できないのです。鬱陶しいことこの上ないですが……

精神病以外の場合では、やはり簡単には放り出せない

 ということは、精神病でない病気の場合でも、やはり配偶者を放り出すのは、簡単ではないのです。

 私は難病にかかってしまいました。長期療養中ですが、もし症状が多少改善しても、まともに働く能力は戻る見込みがありません。家事もこなせないでしょう。
 そんな役立たずな私に、夫はだんだん冷たくなっていきました。見舞いにも来なくなり、入院費用も払ってくれなくなりました。今は親が肩代わりしてくれています。
 泣き面に蜂とばかり、今度は離婚まで請求されるようになりました。どうしたらいいでしょうか?

 確かに、夫婦には協力義務があります。
 仕事も家事もしない非協力的な相手とは、離婚することも可能です。しかしそれは「できるのにやろうとしない」場合です。当事者同士に婚姻継続の意思がない、と判断できるから、離婚できるのです。

 しかし、この場合の妻は、そうした意思をもたないわけではありません。不可抗力で仕事や家事ができないだけなのです。単身赴任で別居している場合に、これは別居だから夫婦生活は破綻している、セックスレスでもあるから……なんて話にならないのと同じです。
 よって、このケースでは、妻はまったく役立たずであろうとなんだろうと、夫に婚姻費用を請求することが可能です。夫の離婚請求は、かなりの確率で却下されるでしょう。見舞いにも行かず、入院費用の支払いも拒んで、夫としての義務を放棄しているからです。

印象をよくする

 とはいえ、これは良し悪しです。
 では、もし夫がこういう状態になったら、あなたはずっと面倒をみなくてはいけないのでしょうか?

 これはかなり難しい局面です。
 残りの人生を無にしたくなければ、多少のお金は犠牲にしても、自由になってチャンスを掴みたいところでしょう。もちろん、あなたがその病気の夫を愛していて、最期まで添い遂げるつもりであるなら、それはそれで自由ですが。
 しかし、間違いなくいえるのは、ここで夫を放り出すような行動をとっても、何も解決しないということです。

 このような事例は非常に難しく、裁判所によっても判断が分かれることが多いのです。
 というのも、病気の夫の立場を優先するか、妻の将来をどうするのか、そのギリギリの選択を強いられるためです。

 だから、印象が非常に重要になります。
 蓮沼式の離婚メソッドにおいては、こうして生じた困難から、あえて逃げないことを選択すべきとしています。

 とりあえず、毎週のように見舞いにも行き、子供がいれば面会もさせ、入院費用も当座はなんとか工面しましょう。私はこんなに頑張ってきました、義務は果たしてきました、「でももう限界です」……そういう条件を整えてから、離婚裁判に持ち込むのです。
 のるかそるかの勝負ですが、離婚後も可能な範囲で助力はします、とアピールすれば、前向きな結果が得られる可能性は高まります。うまく同情を集めましょう

見捨てられたらどうするか

 逆に、あなたが難病で苦しんでいる場合は、どうしたらいいでしょうか?
 夫が献身的な看護をしてくれる場合で、かつ子供がいれば、あまり心配はいらないでしょう。子供から母親を奪う、ましてや病気の母親を見捨てるなんてカッコ悪いことは、怖くてできないからです。

 夫が病気になったあなたを見捨てるような振る舞いに出たら、婚姻費用の請求をしましょう。あなたの収入はゼロで、家事などの貢献もゼロですが、それでも夫はあなたを守らなければいけません。
 しかし、入院しているならお金だけでも負担させておけばいいのですが、一応退院して自宅療養するとなると、愛情のない夫は邪魔でもあり、脅威ですらあります。下手をすると、早く死んで欲しいとまで思っている可能性があるのですから。そして、法律も愛情ある看護を強制することはできませんし、家の中をずっと見張ってくれるわけでもありません。
 そういう不安がある場合には、あえて離婚に応じるのも手です。可能な限り多くの慰謝料と財産分与を受けて、公的支援も申請しましょう。病気の時は、心も弱りやすいものですから、そういう愛情のない邪魔な夫は、あなたの環境から削除しておいたほうが無難です。

離婚の原因:宗教

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