離婚の原因:別居、失踪

離婚の原因・理由

 婚姻の基本は「生活を共にする」というところです。
 法律学辞典によると、婚姻の定義は次の通りです。

『社会制度として保障された男女の性的結合関係、またはこの関係に入る法律行為』

 最高裁判所の判示によれば、次の通りです。

『婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにある』

昭和62年9月2日 大法廷判決・判例時報一二四三号

 真摯な意思をもって共同生活を営む、ということがなくなった時点で、既に婚姻は破綻し始めているということが言えそうです。
 不貞行為のところでも説明しましたが、一緒に生活していない夫婦としての実態がないという事実を、裁判所は重く見ます。よって家庭生活が成立していないのであれば、離婚は可能ということです。
 夫婦である以上、特別の事情がない限りは、同居し、協力し、助け合わなくてはなりません。少なくとも、法律はそう定めています。

悪意の遺棄

 民法には「悪意の遺棄」という言葉があります。
 正当な理由がないのに、同居・協力・扶助義務を果たさないことを言います。

 例えば、夫がある日、外で愛人を作ってしまい、帰ってこなくなったとします。以前、ビートたけしさんの話がよくニュースになっていましたが、彼も妻が家にいるのに、愛人宅に寝泊りしていましたね。あの時、彼は「居心地のいいほうに帰っているだけ」と言い放ちましたが、これは法的には悪意の遺棄に相当します。
 このケースでは既に愛人がいるので、不貞行為でもあるという問題点がありますが、そうした相手がいない場合でも、

「うちにあるお金を持って勝手に一人で海外旅行に出かけてしまい、もう二ヶ月も帰ってくる様子がない」

 というような場合には、立派に悪意の遺棄が成立します。

 逆に悪意の遺棄が成立しないケースとしては、例えば「単身赴任」があります。
 これは会社の業務命令に従って遠くに行かざるを得ないのであって、夫が自発的に家庭生活を放擲したことにはなりません。ただ、絶対に安心というわけではなく……

「俺、バンコク支社で働いてるうちに、現地タイ人女子社員のパカーマートちゃんが好きになっちゃったんだよね、だから別れてくれない?」

 というようなメールや手紙が届いた場合、この時点をもって「破綻の始まり」と看做されることがあります。
 別居状態なのは同じなのですが、その状況は、このメールが届くまでの間は「会社の業務命令」という正当な理由で説明可能でした。しかし、夫の意思表示によって、この別居に異なる解釈が可能になってしまったのです。彼は既に前向きな理由で別居を希望しており、離婚したがっているのです。これは「家庭生活の破綻」と判断できてしまうのです。

 ただ、彼がこのメールを送ってきたからといって、妻側が即座に離婚に応じなくてはいけないということはありません。
 婚姻が破綻しているとされるには、それなりに長期間の別居が必要です。そして、正当な理由を伴わない別居は、まさにこの夫のメールから始まっているのであって、ここからある程度の期間を経ないと、破綻を理由に彼からの離婚が認められることはありません。
 もちろん、このケースでいえば、妻の側が夫の不貞行為を理由に離婚を訴えることは可能ですが……

 悪意の遺棄による離婚は、早ければ二ヶ月ほどの別居で認められたこともあります。

別居は離婚の踏み台

 つまり、逆にあなたが離婚したいのなら、別居すればいいのです。あくまで婚姻の破綻が離婚の原因なので、不貞行為と違って慰謝料は問題とならないでしょう。というのも、別居に踏み切ったのはあなたでも、あなたに別居を決断させたのは、例えば夫のモラハラかもしれないからです。また、そこまでいかなくても、性格の不一致は立派に離婚の理由になります。
 但し、この場合、元配偶者が困窮しないようにするという義務が生じます。不貞行為のところでも説明しましたが、他に愛人ができて、そちらと結婚したいから離婚するという場合に、夫は元妻が困窮しないように経済支援をする責任を負わされることが多いです。
 ただ蓮沼が考えるに、この点、女性はやや有利かもしれません。共働きが主流の現代においても、夫の収入は妻より多いケースがほとんどです。あなたが専業主婦ならもちろんのこと、働く兼業主婦だった場合でも、夫に対してお金の持ち出しになることは、ほぼないと言えそうです。

 →離婚の要・別居戦術のポイント

失踪

 さて、ここまでですが、それもこれもすべては「相手がいる、見つかる」ことが前提のお話です。
 世の中には、とんでもない夫もいるもので……

「夫が家を出て行ってから、もう十年以上になります。住民票もそのままですし、どこに住んでいるのか、生きているのかすらわかりません。さすがに再婚したいと思っているのですが、どうすればいいでしょうか」

 こんな相談をする女性もいるといいますから、驚きです。

 いくら離婚したいといっても、まさか勝手に印鑑を押して、夫の分まで離婚届を記入して提出するわけにはいきません。
 バレなければ受理されてしまい、離婚も成立するのですが、本人の意志を無視して書類を作って意志表示してしまっているわけですから、有印私文書偽造罪、及び偽造有印私文書行使罪に問われます。加えて、そのまま希望の相手と結婚した場合には、重婚罪まで適用されてしまいます。
 もっといえば、離婚届そのものは記入済みであっても、提出は勝手にやってはいけません。もし強引に提出しても、相手にはそれを差し止める手段があります。

 なので、放り出されてしまった女性には気の毒ですが、ちゃんと正規の手続きを経て離婚なさるべきです。

 ではどうするかというと、家庭裁判所に離婚の訴えを提起することになります。相手が不在であり、行方不明でもある以上、調停をしようにも、呼び出しに応じてくれることは期待できません。
 所在不明の相手と裁判する場合には、公示送達という手段をとります。相手の親族に問い合わせたり、警察に捜索願を出すなどして、可能な限り夫を探す努力をするのです。それでも見つからなかった場合には、調査報告書、最後の住民票などを提出して、裁判を進めます。訴状を裁判所の掲示板に一定期間掲示して、訴状が相手に送達されたとみなしてもらい、裁判を始めるのです。あとはあなたが提出した証拠に基づいて判決がなされます。

 特に、夫が三年以上、生死不明であるという場合には、それだけで離婚が可能です。
 例えば、夫がマグロ漁船の乗組員で、太平洋のどこかで船が遭難したらしいとします。損傷した船も、乗組員の遺体も発見されていませんが、どこにも連絡がない状態が三年続いたとすれば、条件を満たしたことになります。
 この場合、上記の公示送達によって離婚判決をもらえば、晴れて婚姻の自由を得ることができます。

財産相続をとるか、きれいな離婚をとるか……

 もう一つの方法は、やや使い勝手が悪いです。
 夫が七年以上、生死不明である場合は、家庭裁判所に失踪宣告を下してもらうことができます。これがあると、夫は死んだことになります。戸籍にも死亡と記録され、配偶者が死んだら婚姻も終了するため、妻は自由に再婚できるようになります。

 但し、この後に元夫が生きて帰ってきた場合が問題です。
 先に離婚判決をもらっておける公示送達の場合は、既に成立した離婚がひっくり返されることはないので、後に結婚した今の夫が優先されます。
 一方、失踪宣告による再婚は、前夫の生還によって取り消される危険があります(民法七三二条、七四四条一項)。これは、必ずそうなるということがいえない、かなり曖昧な部分です。

 こう考えると、失踪宣告にメリットはないように見えます。公示送達によってはっきり離婚判決をもらっておいたほうが、後々揉めないで済むのではないか、と思うかもしれませんが、無視できないポイントが一つ、あるのです。
 それは「相続」です。

 前夫が仮に資産家だとしましょう。
 結婚する前に十億円持っていて、年収は千五百万円です。あなたとの共同生活で、毎年五百万円ずつ消費して、毎年一千万ずつ貯金したとします(本当は税金もかかるのですが、話を単純にするために端折っています)。
 そうして三年過ごした後、この前夫は行方不明になりました。

 さて、三年後、あなたは別の素敵な男性に出会ったとします。彼と再婚するには、今の婚姻を解消しなくてはなりません。
 ここでもし、公示送達によって前夫と離婚した場合、あなたが行ったのは「離婚」なので、前夫との財産分割は、あなたとの共同生活によって得られた分に限られます。つまり、あなたと結婚してからの最初の三年間に貯めた三千万円、この半分があなたのものになります。最初からある十億円については、まだ前夫の所有物です。
 しかし、あと四年待って、七年経ってから失踪宣告を利用した場合、あなたが行ったのは「死別」になりますので、前夫の財産に対する「相続権」が発生します。子供の有無や夫の親族の有無によって取り分は変わりますが、仮に前夫の親が残っていた場合でも、3分の2はあなたの分になります。もちろん、そこから相続税は差し引かれますが(6億円以上なので、55%も取られる!)、それでも

 660,000,000×0.45=297,000,000

 ……3億円弱があなたの手に転がり込むことになるのです。

 でも、一度相続したこのお金も、前夫が戻ってきたら、返さなくてはいけないのでは?
 その通りです。しかし、全額を返還する必要はありません。もし使い込んでしまっていても、残っている分だけ返せばいいことになっています。ただ、もしあなたが前夫の生存を知りながら、あえて失踪宣告した場合には、この限りではありません。すべてを返還する義務を負うことになります。

 長期の別居、行方不明など、どんな状況でどんな離婚方法を選ぶか、よく考えて選びたいものですね。

離婚の原因:家庭内暴力(DV)、虐待

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