離婚の判例:子の連れ去りは犯罪です

離婚の判例集

 もし運悪く子供が夫の下に残されてしまった場合……

 実力行使で奪い取ってはなりません。
 それは犯罪です。

 だからこそ、離婚を決断したなら、あなたが先手を取って情報を調べ、証拠を確保し、子供を連れて家を出るべきなのです。必ず先手を取れるようにすること。蓮沼式離婚メソッドにおける最重要事項です。
 後手に回ると、他のこともそうですが、子供と一緒に暮らす権利さえ奪われてしまいます。

未成年者略取罪

 平成13年に、とある夫婦が口論となり、夫が妻に暴力を振るいました。
 それで妻は、長男を連れて青森県の実家に帰り、別居が始まりました。そして妻は、離婚訴訟を起こしたのです。

 夫は、平成14年11月22日午後3時45分頃、保育園の歩道上にいた長男を見つけました。妻の母と一緒に帰宅する途中だったのです。
 そこで夫はいきなり長男を抱きかかえ、付近に駐車させておいた自動車まで全力で走り、車に乗り込んで、妻の母が制止しようとするのも構わず、車を発進させて長男を連れ去ったのです。

 しかし、こうした行動にどれほどの計画性があったのでしょうか。
 確かに、連れ去るまでは入念な準備もあったに違いなのですが、その後があまりにお粗末です。子供を奪い取った後のビジョンが、何もなかったようなのです。
 結局、その日の午後10時20分頃、林道上において長男と共にいたところを警察官に発見され、逮捕されました。

 一審、控訴審とも、夫に対する未成年者略取罪の成立を認めました。
 最高裁も、次のように述べて上告を棄却したのです。

「夫は、長男の共同親権者の一人である妻の実家において妻及びその両親に監護養育されて平穏に生活していた長男を、祖母に伴われて保育園から帰宅する途中に前記のような態様で有形力を用いて連れ去り、保護されている環境から引き離して自分の事実的支配下に置いたのであるから、その行為が未成年略取罪の構成要件に該当することは明らかであり、夫が親権者の一人であることは、その行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮されるべき事情であると解される。本件において、夫は、離婚係争中の他方親権者である妻の下から長男を奪取して自分の手元に置こうとしたものであって、そのような行動に出ることにつき、長男の監護養育上によるものであるとしても、正当なものということはできない。また、本件の行為態様が粗暴で強引なものであること、長男が自分の生活環境についての判断・選択の能力が備わっていない2歳の幼児であること、その年齢上、常時監護養育が必要とされるのに、略取後の監護養育について確たる見通しがあったとも認め難いことなどに徴すると、家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるものと評することもできない。以上によれば、本件行為につき、違法性が阻却されるべき事情は認められないのであり、未成年者略取罪の成立を認めた原判断は、正当である」

 未成年者略取罪は、3月以上5年以下の懲役刑が科される、正真正銘の犯罪です。
 このように、実の親だから、「俺の子だから」という理由で、勝手に奪い取って連れ去ることは、法律上、許されてはいないのです。

 もちろん、例外的なケースなら存在するでしょう。
 妻がまともに監護していると思ったら、毎日毎日幼い息子に折檻を加えていた、煙草の火を肌に押し付けていじめているのを見た……みたいな状況であれば、力ずくで奪い取っても許されると思います。
 しかし、まともに養育されている状況では、実力行使が認められることはありません。

審判前の保全処分はあるが……

 では、どうやって取り戻すのでしょうか。
 一応、審判前の保全処分、という方法があります。

 昭和63年に結婚した夫婦で、昭和64年、平成3年、平成5年と三人の男児が生まれた夫婦のケースです。
 夫はガソリンスタンドの経営者で、妻は専業主婦でした。

 平成12年になって、夫が女性従業員と旅行に出かけたことが発覚して、妻は離婚を決意しました。しかし、当時は病気をかかえており、意思から治療に専念する必要があるといわれたため、仕方なく一人で実家に帰って別居しました。
 11月、妻は夫に対して婚姻費用分担調停と離婚調停申立てをしました。ところが夫は、子供達の親権者を自身と記載して協議離婚の体裁で離婚届を出してしまったのです。これは本当に準備不足で踏み切った、悪い離婚の例だと思います。
 そして、勝手に離婚届を出された件について、すぐには妻は対策を取りませんでした。

 平成12年12月、平成13年1月には、子供達と妻との面会交流が行われましたが、その後は途絶えてしまいました。
 妻は、平成13年2月に、夫に対して離婚無効確認、夫の不貞行為等を理由とする離婚、子供達の親権者を自身と定めること等を求める訴訟を起こしました。
 そして妻は、その三ヵ月後に、子供達の引渡しを求める審判の申し立てをしました。更に、平成14年には、審判前の保全処分として、子供達の引渡しを求めました。

 原審では、妻の申し立てが認められました。

「現在夫のもとで生活している事件本人らは、母別居後の生活面に特には問題はなく、表面上は一応安定しているかに思える生活をしているが、父母である妻と夫が子供らの前で不和となり、父が母に暴力を振ったりし、父が他の女性とつきあい、その女性を家に連れてくるなどの行為をさまざま見聞きしてきたものであり、これらの夫の言動が感受性豊かな年代の事件本人らに与える影響は無視しえないものがあり、これからの事件本人らの成長過程にあって、心理的な環境の改善は極めて重要といえる。
 事件本人らの養育についての客観的、経済的環境の整備については、妻側、夫側ともさしたる差異がない状況であるから、こうした精神的、心理的環境の側面において、夫のもとでよりも妻のもとで監護養育した方が一層事件本人らの福祉に資し、妥当であるといえる。さらに、妻と夫の身分関係の訴訟の進行状況、本件本案についての終局的行方等にはなお日時を要するとすると、その間日々の生活をしている事件本人らの状況を現状のまま放置しておくことはその福祉に著しく反するから一日も早く、事件本人らを夫のもとから妻のもとに引き渡すことが緊急の要請であるといえる」

 しかし、これは控訴審でひっくり返されます。

「審判前の保全処分を認容するには、民事保全処分と同様に、本案の審判申立てが認容される蓋然性と保全の必要性が要件となるところ、家事審判規則52条の2は、子の監護に関する審判前の保全処分に係る保全の必要性について、「強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するための必要があるとき」と定めている。そして、子の引渡しを求める審判前の保全処分の場合は、子の福祉が害されているため、早急にその状態を解消する必要があるときや、本案の審判を待っていては、仮に本案で子の引渡しを命じる審判がされてもその目的を達することができないような場合がこれに当たり、具体的には、子に対する虐待、放任等が現になされている場合、子が相手方の監護が原因で発達遅滞や情緒不安を起こしている場合などが該当するものと解される。
 事件本人らは、現在、夫の下で一応安定した生活を送っていることが認められ、上記保全の必要性を肯定すべき切迫した事情を認めるに足りる疎明はないから、その余の点について判断するまでもなく、本件審判前の保全処分の申立ては理由がない」

 要するに、保全処分を求めても、本当に子供が虐待されているとか、何か緊急を要する何かがない限りは、裁判所は動いてくれないのです。
 だから、家を出る時には子供をしっかり掴んでいかなくてはいけません。

 こうやって判例を確認するだけでも、いかに事前準備が重要か、見通しを立てて離婚することの必要性がよくわかるかと思います。

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