離婚の判決:面会交渉を拒絶すると慰謝料

離婚の判例集

 離婚したら、すべて縁が切れる。
 これが理想なのですが、実際にはそうもいきません。

 私、蓮沼が個人的に知っている夫婦……いえ、元夫婦にしてもそうです。
 縁があって、私は二人の間の子を、一方から預かってもう一方の実家に送り届けたことがあります。その後の様子も見ていたのですが、元夫のスマートフォンに、元妻からLINE通話があったりするんですね。もちろん、目的は子供と話すためです。

「元気? ママだよー」

 といった感じです。
 逆に、まだ三歳の息子が「ママと話したい」というと、やはり元夫は通話を繋げます。そうせざるを得ないのです。

 子供に「パパがいない」「ママがいない」という苦痛を与える権利は、両親ともに持ちません。優先されるのは、道義的にも法的にも「子の福祉」です。
 暴力その他正当な理由が用意できない状態でこれを拒否し続けると、思わぬしっぺ返しが待っている場合もあるのです。

慰謝料、なんと500万円!

 平成4年に結婚、6年に長男が生まれた夫婦のケースです。翌年には妻は長男を連れて実家に帰り、夫と離別しました。
 妻は、7年8月に離婚調停の申し立てをしましたが不調に終わり、夫の側も年末に長男との面会交流を求める調停を申し立てましたが、これも不調となりました。

 夫は翌年、離婚等請求訴訟を提起しました。平成10年に長男の親権者を妻とする離婚が成立しました。
 調停条項には、

「妻は夫に対し、長男と2ヶ月に1回、1回につき2時間程度面接することを認め、夫からの申し出により、日時、場所、方法等について協議することとし、妻は子の面接交渉が円滑に行われるように誠意を持ってこれにあたる。なお、面接場所については子の意思を尊重する」

 と定められていました。

 しかし、平成10年7月30日午前9時30分から、公園で面会交流を実施するとの協議が成立しましたが、その時刻に妻も長男も現れませんでした。
 その後、夫の申し出により、家裁調査官から妻に対して面会交流の履行勧告がなされましたが、妻はこれにも応じませんでした。

 平成10年12月に、夫は妻に対して、長男との面会交流を妨害した等として、不法行為に基づく500万円の損害賠償請求訴訟を提起したのです。
 静岡地裁は、夫の請求を認め、妻に500万円の支払いを命じました

「子との面接交渉権は、親子という身分関係から当然に発生する自然権である親権に基き、これが停止された場合に、監護に関連する権利として構成されるものといえるのであって、親としての情愛を基礎とし、子の福祉のために認められるべきものである」

 と基本的な理念を述べてから、

「妻が夫の許を離れて別居するに至ったのは、本件調停の経過や調停離婚成立の過程を併せ考慮すれば、決して夫が自己本位でわがままであるからというのではなく、むしろ、妻の親離れしない幼稚な人格が、家庭というものの本質を弁えず、子の監護養育にも深く考えることなく、自己のわがままでしたことであって、そのわがままな態度を夫に責任転嫁しているものという他はなく、右妻の別居に至る経過が今回の面接交渉拒否の遠因となるとする妻の主張は到底採るを得ない」

 かなり手厳しい指摘がされました。

「妻が夫に対して長男との面接交渉を拒否したことは、親権が停止されているとはいえ、夫の親としての愛情に基づく自然の権利を、子たる長男の福祉に反する特段の事情もないのに、ことさらに妨害したということができるのであって、(略)その妨害に至る経緯、期間、妻の態度などからして夫の精神的苦痛を慰謝するには、金500万円が相当である」

 結論も厳しいです。
 正当な理由なしに面会交流を拒否すると、最悪、これほどまでに厳しい判決が下るのです。
 裁判所の方針として、面会交流は促進するものだからです。

 ただ、裏を返せば、親権が夫にいった場合にも、妻側は面会を確保することができるのです。
 調停、審判などによって面会交流が決められたにもかかわらず、正当な理由なく監護親がこれに従わない場合の履行確保の方法としては……

 1.家庭裁判所による履行調査、勧告
 2.間接強制

 の2つがあります。
 更に、監護親の不法行為として慰謝料まで取ることもできます。

 ただ、正直、ここまでやることをオススメできるかというと、微妙ですね。
 これほどまでの争いに発展した場合、何が起きるかわかりません。今後ともスムーズに面会交渉できるとも限りませんし、恨みが残りますから……

 面会は、離婚後の難しいイベントの一つです。
 離婚前には頭がいっぱいで思いが至らないかもしれませんが、できればよく考えておいてください。

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