離婚の判例:親権の原則と二子の分離

離婚の判例集

 財産分与と並んで特に離婚において興味関心を集める分野が、親権です。
 子供と暮らすのはどちらの親になるのか。親権というと親の権利みたいに聞こえますが、実際には監護者として子供の権利を本人に代わって行使し、守るための責任を負うというだけのことです。

 大きく基準としては、

  • 幼い子供(10歳未満)は母親に
  • 大人に近い子供(15歳以上)は本人が決める
  • 現況、既に子供と生活が成立している
  • 虐待などを加えているか
  • なるべく子供を分離しない

 というところがポイントになります。
 経済力がまったく影響しないかといえば、そんなことはないのでしょうが、それは養育費でなんとかなるので、最優先項目ではありません。

 しかし、こうした基準があっても、何もかもがきれいに噛み合う事件ばかりではありません。
 例えば兄弟姉妹で年齢差があって、9歳の少女と15歳の少年がいた場合は、どうするべきでしょうか。子供を分離しない原則を優先するのか、それでは少年も母親の監護の下におくべきなのか、でも少年自身が母親を嫌悪していて、暴力を振るうこともあるとしたら。
 更に、少女が父と、少年が母と現状暮らしていると暮らしているという状況まで加わると、何が正解かわからなくなってきそうです。

 だから、少なからずケースバイケースです。
 ただ、離婚・別居状態が始まる前に、子供と生活した実績を作っておくことは、親権をとる上では有利に働くでしょう。

二子分離の例・1

 昭和44年に長男、48年に次男が生まれた家庭ですが、昭和51年頃から夫婦仲が悪化して、52年2月に妻が子供二人を置いて家出し、11月に帰宅しました。翌年53年8月に、妻は離婚調停を申し立てて実家に帰りました。
 その時に、母は二人の子供にどうするかを尋ねました。長男は母と行くことを希望し、次男は残りたいと言ったので、母は長男だけ連れて行きました。以後、父が次男を、母が長男を養育する状態が続きました。
 昭和55年春には次男は小学校に入学し、父の姉が近所に暮らしていて、彼女も次男の世話をしています。

 この状況で、夫は妻に対して、離婚を求める訴訟を提起しました。

 一審は離婚を認め、長男、次男とも母を親権者と定めました
 次男は小学校に入学するタイミングですから、まだ6歳です。10歳未満の幼い子供は、母親の細やかな愛情が必要とされる年齢でもあり、また、兄弟を引き離さないという点でも、これはこれでそれなりに妥当性のある判断です。
 ですが夫は、一審判決のうち、親権者の指定部分についてのみ、不服申し立てをしました。
 控訴審は、一審の一部を取り消して、長男の親権者を母、次男の親権者を父と指定しました

「本件においては、このように既に夫と妻は完全に別居し、その子を1人ずつ格別に養育するという状態が2年6月も続いており、その間、それぞれ異なる生活環境と監護状況の下で、別居当時、5歳4月であった二男は8歳に近くなって小学校1年生を終えようとしており、9歳になったばかりで小学校3年生であった長男は11歳半となり、やがて5年生を終ろうとしている状況にある。離婚に際して子の親権者を指定する場合、特に低年齢の子の身上監護は一般的には母親に委ねることが適当であることが少なくないし、前記認定のような夫側の環境は、監護の条件そのものとしては、妻側の環境に比し弱点があることは否めないところであるが、夫は、前記認定のとおり、昭和53年8月以降の別居以前にも、妻の不在中、4歳前後のころの二男と過ごした期間が長く、同人も夫によくなついていることがうかがえる上、長男についても、二男についても、いずれもその現在の生活環境、監護状況の下において不適応を来たしたり、格別不都合な状況が生じているような形跡は認められないことに照らすと、現在の時点において、それぞれの現状における監護状態を変更することはいずれも適当でないと考えられるから、長男の親権者が妻と、二男の親権者が夫と定めるのが相当である」

 このように、いくつかの原則を犠牲にする結論が出ることもあります。
 10歳未満の子供は母親に預けられることが多いこと、兄弟を分離しないこと、という原則よりも、現況が維持されていることを東京高裁は重視しました。

二子分離の例・2

 もう一つ、判例を見てみましょう。
 こちらも子供が分離されたケースです。

 昭和47年に長女が、51年に長男が生まれた家庭ですが、夫は妻に対して離婚と、二人の子供の親権者を父とする訴訟を提起しました。妻も同様の内容で反訴しました。

 この夫、重大な問題があったようです。
 飲酒と暴力が癖になっていたらしく、一審ではそれが婚姻の破綻を招いたとして、妻の離婚請求が認容され、夫は有責配偶者として請求を棄却されました。
 ですが親権者については、二人の子供が5年にわたって夫のもとで生活してきた点を重視して、親権者を父としたのです。

 母親としては納得できなかったし、気がかりでもあったのでしょう。
 控訴審では、判決の一部が取り消され、長男の親権者は母となりました。長女の親権は相変わらず父に残りました。

「父母が離婚するに際し、未成年の子の親権者の指定は、いずれが親権を行使するほうが子の福祉にとって望ましいか、という観点により決定される」

 という前提がまず宣言され、続いて両者の状況を比較しました。

「夫は夫婦別居中、2人の子、とりわけ長男に対して折かんを加えるなど暴力を行使していることが認められ、その程度も父親が子に対してなす躾けと評価しうる範囲を超える場合もあるものと認められ、両者の間に健全な父子関係が形成されているかどうかが多分に危惧されるところ、このことと前認定のとおり本件婚姻が両者の性格の相違と、夫から妻に対する有形力の行使等により別居を繰返した挙句破綻するに至ったという経緯に照らすと、夫が2人の子の親権者として妻より適当であるとは必らずしも言い難いばかりか、父親の暴力行使の対象となり易い息子については、むしろ、夫は、親権者として多分に懸念されるところがあるということができ、妻の方が親権者として適任ではないかと考えられるのである」

 酔っ払って妻を殴る夫ですから、息子も当然に殴ります。
 であれば、娘の親権者としても不適格な気がしますが……

「長女は高校進学の年令であり、その生活環境に変更を加えるのは好ましくなく」
妻との同居を必ずしも望んでいないと考えられる」

 ということで、長女の親権は父に、長男の親権は母に渡りました。
 暴力を振るう父なら、普通は嫌われて当然なので、それでもなお娘が母との同居を希望しないあたり、判例からだけではわからないのですが……妻の側にもかなりの問題があるのかもしれません。

 このように、親権がどちらに渡るかについては、原則はあるものの、なかなかきれいに決まるとは限らないもののようです。

 残念ながら、判例には裁判所の判断について述べられているのみで、当事者の気持ちなどはわかりません。それでも、離婚に携わってきた蓮沼の経験からすると、こういった状況は、子供達の心に大きく影を落とすことでしょう。
 子供達も、一緒に暮らせば兄弟姉妹に、家族になりますが、別々に育てば他人になるだけです。そこもよく考えておきたいところですね。

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