離婚の判例:扶養的財産分与

離婚の判例集

 財産分与には、3つの性質があるといわれています。
 清算的財産分与扶養的財産分与、そして慰謝料です。最後の慰謝料を含めるかどうかについては、異論もあります。

 清算的財産分与について簡単に述べるなら、夫婦で築いた共同財産を分割する、ということです。どちらの名義になっていても、関係ありません。その貢献の度合いに応じて分配されるべきものとされています。財産分与といえば普通はこちらで、これだけでも考えるべきことが多岐に渡ります。
 もう一つ、扶養的財産分与というのは、離婚によって一方が経済的に過酷な状況におかれるのを避けるためのものです。

 例えば、夫の側には相続された固有の資産があるものの、夫婦で築いた共同資産がほとんどない場合で、年金生活をしていたりするケースです。清算的財産分与で妻がもらえるものはほとんどなく、年金も分割すると妻の手元に残るのは生活できないギリギリ以下の額にしかならないのに、夫は相続したマンションの家賃収入のおかげで悠々暮らせる……これではあまりにひどいということになれば、裁判所は扶養的財産分与を命じます。

 この点、主婦になるなどして、収入を得にくい女性には、ありがたいルールです。
 ただ、当然ながら扶養的といわれるくらいですから、今後の生活に不安がないと判断される状況では認められません。

 以下、具体例をみていきましょう。

扶養的財産分与が認められた例

 妻と夫は、昭和8年に婚姻届を出し、五人の子供が生まれました。夫は会社に勤務していましたが、昭和21年に独立して会社を立ち上げ、代表になりました。
 昭和33年、56歳の時点で女性と知り合い、親密な関係になりました。昭和35年には女性を会社の従業員にして、更には取締役にまでしてしまいました。こう、言ってはなんですが、完全に老いらくの恋、色ボケですね……
 更に昭和37年には、女児まで生まれてしまいます。昔の人は元気だったんだなぁと痛感させられます。
 これが昭和46年には、妻と別居して女性と同居しました。

 それから15年、夫婦は別居したままでした。
 昭和も終わりになってから、ついに妻は離婚、財産分与、慰謝料を請求する訴えを起こしたのです。

 一審では離婚を認め、慰謝料請求として夫に800万円女性に300万円の支払いを命じ、財産分与として夫に2000万円の支払いを命じました。
 控訴審では、慰謝料請求として夫に1000万円女性に500万円の支払いを命じ、財産分与として夫に1200万円の支払いを命じました。

「婚姻歴、その間の夫の不貞関係、別居期間、婚姻破綻の原因は専ら夫側にあること、別居後の妻に対する婚姻費用分担の実情、右分担額がその間の夫の収入に比し極めて低額であり、昭和59年1月からはその支払いすら停止されたこと、いずれにしても妻は見るべき資産とて形成できず、今後の住居すら安定しておらず、これまででもその子らの援助でどうやら過ごしてきたこと、さらに後記の財産分与の額等諸般の事情を考慮すると、夫は妻に対し、離婚にともなう慰謝料として金1000万円を支払うべきである」

 減ってるじゃないか! と言われそうですが、この裁判は困難を極めたのです。というのも別居期間が長く、また妻が夫の資産を把握していたわけでもなかったため、夫の資産を把握するのが困難な状況にあったのです。
 しかも、夫は会社経営をするくらいのやり手だっただけあって、財産隠しが得意でもあったのです。現在、女性と同居している住居にしても、この夫が資金を拠出したらしいのですが、裁判所も確かな証拠を掴むことはできず、これが実質的に夫の財産かどうかが争点にはなりましたが、結局、これを財産分与の対象に含めることはできませんでした。

「解約した生命保険、定期積金等の掛金、前記返済金(夫と女性が居住している女性名義の住宅の売買代金にあてるため、農協から2000万円と親族からの借り入れをしたと主張しているもの)等の出所が女性の収入によるものか疑う余地があり、むしろ専門家の指導のもとに夫の資産の相続対策を含めての税法上の措置が行われているのではないか、売買代金の出所もその関係から形を整えたのではないかとの疑いも禁じえない」
「その他本件全証拠によっても、住宅が一部にせよ現在実質夫の所有に属しているとまで認めることはできない

 それでも、残された妻が離婚後、非常に貧窮するであろうことを考慮して、夫に扶養的財産分与を命じるという判断になったのです。

「妻が、現在75歳であり、離婚によって婚姻費用の分担分の支払を受けることもなくなり、相続権も失う反面、これから10年はあると推定される老後を、生活の不安に晒されながら生きることになりかねず、右期間に相当する生活費……」
「昭和61年当時で厚生年金からの収入のみを考慮しても夫の負担すべき婚姻費用分担額は10万円をやや下回る金額に達することが認められるところ、その扶養的要素や相続権を失う事を考慮すると、夫としては、その名義の不動産等はないが、前認定の収入、資産の状況等からして、妻に対し、財産分与として金1200万円を支払うべきである」

 これは、報われたといえるのでしょうか。
 生活費はなんとかなりましたが、妻としては、納得いかない部分もあったでしょう。
 ただ、夫は夫で、ごく僅かな婚姻費用の支払いだけで妻を拘束し、離婚裁判を起こさせないよう押さえつけていたはずが、結局、牙を剥いてきたので、無傷とはいきませんでした。
 痛み分けで終わったお話、とするべきかもしれません。

扶養的財産分与が認められなかった例

 扶養的財産分与は、一方が特に経済的に苦しく、生きていけない場合に認められるものです。
 従って、夫婦の双方が十分に裕福で、必要がない場合には認められません。例えばこちら……

 昭和39年頃、男女関係を持ち、その後一端交際を中断したのですが、昭和52年に夫が妻と死別したために、昭和53年、婚姻届を出しました。
 女性のほうも、昭和43年に前夫と離婚しています。つまり、ダブル不倫のカップルがくっついたことになります。

 夫は結婚にあたって、収入の管理、運用を妻に任せることにしました。妻が財布を握る、日本特有の習慣ですね。
 ところが、平成5年頃から、夫は自分で財産を管理したいと言い出し、これがきっかけとなって夫婦仲が悪化しました。それでこの年に、夫婦は別居しました。

 夫は妻に対して、離婚、主位的に財産管理委託の解除の理由に、予備的には財産分与として、同居期間中の夫の収入約9152万円の支払いを求める訴訟を提起しました。
 逆に妻は、離婚と離婚慰謝料1000万円、財産分与として5000万円、離婚後の扶養料として死亡時まで月額20万円の支払いを求める反訴を提起しました。

 なんというか、お金持ちですね。
 私、蓮沼はごく平凡な家庭の出なので、こんな大金とは縁がなかったのでわかりませんが、やっぱりあるものがあると、心の持ちようも変わってくるのかもしれません。良くも悪くも。

 一審では、管理委託契約の趣旨は、夫の収入のすべてを二人の共有とする委託契約に基づく夫の収入の返還を認めませんでした。
 まず、清算的財産分与として、妻が夫に1000万円を支払い、慰謝料として夫が妻に300万円を支払い、退職金の清算として、夫に退職金が支給されたとき、夫は妻にその半分を支払い、更には扶養的財産分与として、夫が妻に毎月15万円支払うものとしました。
 つまり、ほぼ妻の側の勝訴です。

 しかし、控訴審では少し様相が変わってきます。
 妻は夫に対して、固有財産の残存額であると認められる夫の自宅の売却代金の残額1311万円を返還すること。それと退職金以外の財産分与として妻は夫に対して500万円を支払い、更に夫が妻に支払う予定になっている退職金の半分にあたる1000万円を差し引き計算して、結局夫に対して500万円を支払うことを命じました。
 そして、ポイントは扶養的財産分与ですが、これは理由がないとして却下されました。妻にはかなり多額の財産があり、また所有している自宅には相当の価値がありました。

 夫は年額591万円の年金と恩給を受給していました。毎月で割ると50万円近い額になります。
 それもあって一審では、年金からの支払いを認めたのですが、事実上、扶養的財産分与の必要はなかった、ということです。あくまで貧窮していなければ、認められることはない形の分与だと認識しておいてください。

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