最後に、心の問題です。
離婚がつらいなんて当たり前、そう思っていらっしゃるかもしれませんが、知っているのと体感するのとでは大違いです。
少し想像してみればわかるかと思いますが……
「爪と指の間に針を突っ込んだら痛いよね」
痛いに決まっていますが、実際に刺されるともう、激痛で悶絶します。あなたは言葉にならない悲鳴をあげて転げまわることでしょう。
そんな状態で、私、蓮沼が床にうずくまるあなたに向かって
「では、効率的な離婚とその後の生活について、落ち着いてお話しましょうか」
なんて笑顔で話しかけたら、どう思われますか?
ふざけるな! そんなの無理だろ! 痛いんだよ! と反射的に思うはずです。が、痛いので、それすら口に出せません。
痛みは、かほどにまであなたの思考を阻害するのです。
このサイトでは「離婚は戦争だ」というメッセージを繰り返し述べています。戦争はすべてを破壊します。あなたの心も同様です。
世界が敵になる
原因はいくつもありますが、まず、あなたの環境は一変してしまいます。いえ、「世界が暗転する」といったほうがいいくらいです。
例えば、あなたの周辺の人達は、離婚に際してどんな態度をとるでしょうか?
まず、夫、そして夫の親族は、即座にあなたの敵にまわります。結婚という同盟関係を破棄しようというのですから、それは敵対を意味すると受け取られるのです。
同盟? あれだけ嫁いびりをしておきながら? そう思うかもしれませんが、同盟というのは必ずしも対等な関係を意味しません。宗主国と属国の関係だって、同盟といえば同盟です。であれば、属国の敵対は即ち宗主国にとっての「反逆」です。
それまでは、たとえ姑との関係が悪かったにせよ、「至らない嫁」という視線で見られていたはずです。一応は身内だから、という安全弁があったのです。それが外されるのですから、そして何より大事な息子の利益を損ねようというのですから、これが敵でないはずがありません。
離婚の原因がどちらにあるかにもよりますが、あなたと夫、双方を知る人は、状況によっては、どちらかに肩入れする可能性もあります。ことにあなたが家庭外に恋人をこさえたから、というような理由だった場合、友人知人のほとんどは、あなたをけなして夫に同情するでしょう。しかし、「恋人に縋らざるを得なくなるほどの冷たい家庭生活」というプロセスについては、誰にも理解してもらえません。
そうした目に見えるような原因がない場合、どちらとより親しく、よく知っていたかによって、その人達のポジションは決まってきます。職場では真面目な夫であれば、同僚はきっと彼の肩を叩きながら「大変だな」と声をかけるでしょう。しかし、実は内弁慶のとんでもないモラハラ夫だなんてことは、その同僚ですら知りもしないのですが。
基本、離婚はいいこととは看做されていないので(これも戦争と同じです)、勃発させた側に厳しい視線が向けられることが多々あります。もう少し辛抱できなかったのか、ということですね。
家庭という社会秩序の小さなユニットを破壊する行為なのですから、世の中は優しい視線を向けてはくれません。
蝕まれる心
こうしたことが重なると、あなたは激しい不安に取り囲まれます。
離婚しようとしていること、今は別居中であること、理由はこれで……説明した時に、相手に受け入れてもらえるかどうかはわかりません。話したら、この人も敵になってしまうのではないか。その不安があなたを束縛します。そうやって孤独はますますあなたを蝕んでいくのです。
こうなると、あなたは正常な判断力を失っていきます。
子供を守りたくて離婚しようとしていたはずなのに、苛立ちが募って子供を殴打してしまったりもするかもしれません。これも戦争とそっくりですね。自国を防衛するために戦争を始めたのに、窮乏がひどくなると、国民に多大な犠牲を強いることになるのです。
似たような話ですと、家庭外の恋人と再婚するつもりで離婚のスタートを切ったのに、追い詰められたあなたがどんどん「おかしくなっていく」のを見て、肝心の恋人からも去られてしまうと、そういう可能性だってあり得るわけです。
これは、ただの空想ではありません。
実際に離婚のストレスは非常に大きいので、これが今より幸せな暮らしを営むための努力であるにもかかわらず、離婚成立前後に自殺してしまう人が後を絶たないのです。
私、蓮沼の顔見知りだったとある女性も、それで亡くなりました。農家に嫁いだ方だったのですが、常日頃から夫の冷たい仕打ちに心を傷つけられていました。それで口癖のように「あてつけに死んでやる」とおっしゃっていました。そんなことをしても相手には何のダメージもない、と周囲の人は忠告していたのですが、ついに限界に達してしまったのでしょう。一時期は元気にお過ごしだったこともあったのですが、最後は農薬を飲んで自殺してしまいました。
死ぬくらいなら離婚してサッパリすれば、と外野は考えるのですが、当事者にはそんな余裕などありません。
離婚しないストレスも大きいのですが、離婚するストレスも相当なものなのです。
退却できる拠点
お金の問題、労力の問題と並んで、心の問題が大きな課題であり、守り抜くべき防衛線であるという意識を持ちましょう。
悩みをぶちまけられる相手は、いうなれば「あなたが退却できる拠点」です。
拠点ですから、失陥することもあります。
あなたが苦しみを訴えるのは当然なのですが、その負担が大きくなりすぎると、拠点はそれに耐えられず、崩壊してしまうのです。
具体的に考えてみましょう。
離婚裁判中に、あなたは古くからの女友達に泣きついて、計3時間の愚痴ライブをオンエアしました。一度くらいであれば「うんうん、そうだね」と頷いて貰えます。しかし、これを毎週やられたら、相手はどう思うでしょうか?
自分を引き取ってくれた実家の両親にしてもそうです。彼らには既に、育児の手伝いや住居の提供など、多大な負担をかけています。この上、愚痴シャワーを浴びせたらどうなるでしょうか? ご両親からすれば、家庭を維持できない不出来な娘、いい歳をした大人なのに面倒をみていると、そういう気持ちであってもおかしくありません。それが自分の至らなさを反省するでもなく、相手の悪口ばかり……「でも、お前が選んだ夫なんだろうに」と説教が飛び出すのも、時間の問題です。
いざ、離婚に踏み切る前に、あなたの気持ちを受け止めてくれる人がどれくらいいるか、またそれらの人達にどんな形で守ってもらうのか、それを考えましょう。残念ながら、何から何まで守ってくれるような人は、普通はいません。というか、本来はそれをしてくれる人が「夫」であったはずなのですが、それを「敵」にまわすのが離婚なのですから、必然、あなたは拠点不足に悩まされることになるはずです。
そして、ことはそれでは終わりません。
離婚を通して失われる人間関係は、その後の人生にも影響を及ぼすかもしれないからです。
苦痛にまみれている今だからこそ、夫への憎悪しか目に映らないのかもしれませんが、夫を追い出すことで自分が何を失うのか、ちゃんと計算しておく必要があります。
精神の健全さは、あなたの行動の質を確実に変えてしまいます。
有利な離婚を完遂し、離婚における「戦勝」を手にするためにも、この問題をよく考えておきましょう。
もし、あなたに「退却できる拠点」がないのであれば……
こちらで思いを吐き出してみてください。