離婚の判例:親権の変更についての注意

離婚の判例集

 私、蓮沼は、子供の親権を取りたければ、次のようにするよう勧めています。

「もし別居を始めるなら、必ず子供を連れて出ること。同居生活を安定させること。父親からの面接交渉は、虐待などの恐れがない限り、強引に断ったりしないこと」

 何れも親権を確かなものにするための提案です。
 母性優先の原則があるとはいえ、父親が子供との共同生活を安定させている場合、子の福祉を優先して、親権の指定からあなたを除外するかもしれません。また、せっかくあなたが子供を引き取っても、子供と積極的に接触せず、それこそスマホゲームに監護の代わりをさせているような状況では、後から親権を奪い取られる危険もあります。かつ、元夫からの面接交渉を、適切な理由もなしに無理やり拒否し続けると、これはこれで付け込まれる可能性があります。

 以下、判例を見ていきましょう。

後から親権を取ろうとしても遅い

 昭和57年に結婚し、58年に長男が生まれた家庭のケースです。

 さて、男というのはいつの時代も夢を見るものですが……
 この夫、妻に無断で起業を志したようです。相談もせずに会社を設立し、事業に失敗して、多額の負債を抱えることとなりました。これが妻の怒りを招き、昭和60年、長男の親権者を夫と定めて協議離婚しました。
 妻は離婚に際しては、実は自分が親権者になって息子を養育することを希望していたのですが、まだ離婚後の生活の見通しがたっていなかったために、妻の母、弟も長男の引き取りに反対していました。
 また、夫の父の提案で、

「妻が就職して生活が安定したことを妻の母と弟が認め、長男を引き取ることを願い出たときは、引き渡す。なお、妻が長男に会いたいときは、いつでも会って差し支えない」

 という誓約書を差し出されたことなどから、夫を親権者とすることに同意したのです。
 ですが、やっぱり息子と暮らしたいと思いなおし、昭和60年5月20日に、親権者変更の調停申立てをしました。これが7月17日に不成立となって、審判に移行しました。

 原審では、妻の申し立てを認めて、親権者を妻に変更しました。
 しかし抗告審では、現審判を取り消し、妻の親権者変更の申し立てを却下したのです。

「妻は、夫を事件本人の親権者と定めることにいったんは同意して協議離婚をしたものの、子を思う気持ちを断ち切れず、事件本人の親権者になって同人を監護養育することを強く希望しており、妻の健康状態、性格、愛情、監護養育に対する意欲、経済力など親権者としての適格性において、夫との間にそれほど優劣の差はなく、事件本人の養育態勢についても真剣に配慮していることが認められる。しかし、他方、夫の事件本人に対する監護養育の現状を見るに、夫が昭和60年12月に実家に戻ってからは、事件本人は、祖父母の家において、父、祖父母及び叔母という家族構成の中で、それぞれの人から愛情をもって大事に育てられ、心身ともに健全に成長して、安定した毎日を過ごしており、その生活環境にも何ら問題はなく、経済面においても祖父母の協力によって不安のない状態に置かれていることが明らかである。そうすると、親権者を変更するかどうかは、専ら親権に服する子の利益及び福祉の増進を主眼として判断すべきところ、まだ満3歳になったばかりで、その人格形成上重要な発育の段階にある事件本人の養育態勢をみだりに変更するときは、同人を情緒不安定に陥らせるなど、その人格形成上好ましくない悪影響を残すおそれが大きいものと予想されるから、妻において夫から(略)誓約書を交付された事情を考慮しても、将来再度検討の余地は残されているものの、現段階においては、事件本人のために親権者を夫から妻に変更することは相当でないと言わざるを得ない」

 原審では母性優先の原理から訴えを認めたものの、その後の控訴審では継続性を重視して、これを否定したのです。
 離婚後間もなく、妻は親権者変更を訴えたのですが、ノロノロと裁判をしている間に、元夫と息子との共同生活が既成事実になってしまったのです。

問題行動を指摘されると、親権を取られることも

 いったん子供を引き取っても、それですべて安心とはいきません。
 子供をネグレクトして、まともに養育しないのは問題外ですが、他にも子供に元夫への悪口を吹き込むなど、問題とされる行動をとってきた事実が明るみに出ると、やはり親権を剥奪される恐れがあるのです。

 平成19年に結婚し、その年に長男が生まれたケースです。
 夫は妻に対して、平成22年に離婚調停を申し立てました。その三ヵ月後、妻は長男を連れて家を出て別居しました。
 平成23年には長男の親権者を妻として離婚する、月1回2泊を限度とする宿泊を伴う面会交流を行うなどの詳細な面会交流条項などを内容とする調停が成立しました。ですが、平成23年8月以降、面会交流が実現しない状況が続いたのです。
 それで夫は妻に対して、親権者変更の申立て等をしました。

 福岡家裁は、長男の親権者を妻から夫に変更し、監護者を妻に指定しました。

「長男が、夫を強く拒絶するに至った主な原因は妻の言動にあると認められる」
「子の身上監護を行うべき親に監護権を含む親権を委ねることが子の福祉にかなう場合が多いことから、親権と監護権とを分属させないことが原則であるけれども、親権と監護権とを分属させることが子の福祉にかなうといえる特段の事情がある場合にはその限りでないと解される」
「したがって、本件においては、親権と監護権とを分属させ当事者双方が事件本人の養育のために協力すべき枠組みを設定することにより、妻の態度変化を促すとともに子を葛藤状態から解放する必要があること、夫には、親権者として事件本人の監護養育の一端を担う十分な実績と能力があること、長男の監護を妻から夫に移すことを躊躇すべき事情が認められることからすると、親権と監護権とを分属させることが子の福祉にかなうといえる特段の事情が認められ、親権と監護権とを分属させる積極的な意義があると評価できる」

 不当な理由で面会交流を拒否していたがゆえに親権を取り上げられてしまったのです。
 ただ、これによって母の刷り込みによる長男の父への拒否感がなくなるわけでもありません。いずれにせよ、一番の被害者は子供なのでしょう。

 この二つの判例をよく意識した上で、離婚における親権の獲得を考えてみてください。

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