離婚の判例:共働きの財産分与

離婚の判例集

 昔の判例によくみられるのですが、夫は仕事、妻は専業主婦というケースがしばしば見つかります。その場合、婚姻していた期間によって、共同財産……といっても夫の稼ぎですが、この間に得た収入は夫婦が二人で協力して稼いだものとされ、半分ずつに分割されました。
 しかし、女性も働くこの時代には、ややそぐわない判例でもあります。では仮に、夫婦とも別の仕事で十分な収入を得ていて、かつ別名義の口座に貯金をしていた場合には、どんな財産分与になるのでしょうか。

パワーカップルの離婚

 別々の名義の預貯金、それから著作権などは財産分与の対象になりません。
 ただ、それでも家事労働が妻に集中していた場合には、寄与の割合が高いとされます。

 昭和37年に結婚した夫婦のケースです。42年には長女も生まれました。
 一般と少し違うのは、妻は31年頃から活動している童話作家で、夫は29年ころから活動している画家でした。つまり、この時代には珍しいパワーカップルだったと言っていいでしょう。
 昭和55年頃から不仲になり、家庭内別居が続いていました。平成2年に妻が家を出て別居を開始し、翌年には協議離婚しました。

 二人の仕事はまったく別で、銀行口座も別々、それに活動内容が違うので著作権を有するものも関わりがありません。収入や貯金の額も、妻のほうが大きかったのです。だから生活費も、必要な時に双方が出し合っていました。共有されていたのは、家だけです。
 昭和62年に夫は家を建てています。土地は夫の単独の名義で、建物は妻が1000分の64、夫が残りを持分とした共同登記でした。

 これについて妻は、財産分与及び慰謝料として、土地と建物の夫の共有持分について、妻への所有権等移転登記を求めたのです。
 もちろん、これがそのまま通るとは思っていなかったでしょうが……

 東京家裁は、夫には妻へ3010万円の支払いをするよう命じました。一方で妻には、建物についての共有持分を夫に財産分与するように命じました。
 妻の側が家を完全に手放す代わり、夫はお金を払うということです。

「妻と夫は、婚姻前からそれぞれが作家、画家として活動しており、婚姻後もそれぞれが各自の収入、預貯金を管理し、それぞれが必要な時に夫婦の生活費用を支出するという形態をとっていたことが認められ、一方が収入を管理するという形態、あるいは夫婦共通の財布というものがないので、婚姻中から、それぞれの名義の預貯金、著作物の著作権についてはそれぞれの名義人に帰属する旨の合意があったと解するのが相当であり、各個人名義の預貯金、著作権は清算的財産分与の対象とならない

 問題は、残る土地建物ですが、

「本件清算的財産分与の清算割合は、本来、夫婦は基本的理念として対等な関係であり、財産分与は婚姻生活中の夫婦の協力によって形成された実質上の共有財産の清算と解するのが相当であるから、原則的には平等であると解すべきである。しかし、前記認定の妻と夫の婚姻生活の実態によれば、妻と夫は芸術家としてそれぞれの活動に従事するとともに、妻は家庭内別居の約9年間を除き約18年間専ら家事労働に従事してきたこと、及び、当事者双方の共同生活について費用の負担割合、収入等を総合考慮すると、前記の割合を修正し、妻の寄与割合を6、夫のそれを4とするのが相当である」

 そうした点を考慮して、上記のような判決となりました。
 家庭生活への貢献と建物の妻の持分の買取を合わせたのが夫の支払う額に反映されたのです。

スキル差のある夫婦の離婚

 逆に夫の側が多く割合を取る事例も存在します。
 高額な収入を得られる技能があり、それが夫個人の努力によって達成されている場合です。

 そもそも、結婚前からの特有財産は、それぞれ夫のものは夫のもの、妻のものは妻のものでした。そうした考えに基づけば、結婚する前から、例えば有名な芸能人で既に年収一億円あったとか、そういう状態で妻が結婚して専業主婦になって、三年後に離婚したとしても、いきなり「妻の貢献があったから毎年一億円稼ぎ続けることができた」という話にはならないのです。

 具体的に、神戸家裁、大阪高裁で争われた判例があります。

 夫が婚姻届を出す前に、既に医師免許をもっていて、結婚してから開業医となって、更に医療法人を設立しました。その出資持分は、夫が2900口、妻が50口、夫の母が50口でした。
 その状態で、妻が夫に対して、離婚、子の親権者を妻に指定、離婚慰謝料、財産分与、養育費等を求める訴訟を提起して、夫もまた妻に対して、離婚、子の親権者を夫に指定、離婚慰謝料を求める反訴を起こしたのです。

 一審では、医療法人の出資持分3000口すべてを財産分与の基礎財産としました。
 その上で、寄与割合を夫6割、妻4割と評価して、夫に対して、財産分与として1億4227万円の支払いを命じました。
 控訴審では、医療法人の出資持分3000口の評価を、医療法人の純資産評価額の7割相当額としました。ただ、財産分与の寄与割合については、一審判決を維持しました。夫が支払う金額は1億1640万円となりました。

「民法七六八条三項は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して分与額を定めるべき旨を規定しているところ、離婚並びに婚姻に関する事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならないものとされていることに照らせば、原則として、夫婦の寄与割合は各2分の1と解するのが相当であるが、例えば、《Ⅰ》夫婦の一方がスポーツ選手などのように、特殊な技能によって多額の収入を得る時期もあるが、加齢によって一定の時期以降は同一の職業遂行や高額の収入を維持し得なくなり、通常の労働者と比べて厳しい経済生活を余儀なくされるおそれのある職業に就いている場合など、高額の収入に将来の生活費を考慮したベースの賃金を前倒しで支払うことによって一定の生涯賃金を保証するような意味合いが含まれるなどの事情がある場合《Ⅱ》高額な収入の基礎となる特殊な技能が、婚姻届出前の本人の個人的な努力によっても形成されて、婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたような場合などには、そうした事情を考慮して寄与割合を加算することをも許容しなければ、財産分与額の算定に際して個人の尊厳が確保されたことになるとはいいがたい。
 そうすると、夫が医師の資格を獲得するまでの勉強等について婚姻届出前から個人的な努力をしてきたことや、医師の資格を有し、婚姻後にこれを活用し多くの労力を費やして高額の収入を得ていることを考慮して、夫の寄与割合を6割、妻の寄与割合を4割とすることは合理性を有するが、妻も家事や育児だけでなく診療所の経理も一部担当していたことを考えると、妻の寄与割合をこれ以上現ずることは、上記の両性の本質的平等に照らして許容しがたい」

 こうして判決は確定しました。
 結婚は、多く稼ぐほうが少なく稼ぐほうに支払う契約だ、とも言われます。
 それでも、両者の間に大きなスキル差があると、分配の割合には差が出てきてしまうのです。とはいえ、それでも受け取るものは小さくありません。

 これを得とみるか、損とみるかは人それぞれでしょう。
 私、蓮沼としては、結婚・離婚のいずれにせよ、女性が勝つイベントであるのは好ましいことですが……

 個人的な知り合いの関係で聞いた話ですが、とある医師の妻は、夫が夜遊び大好きでも離婚できずにいるそうです。なぜなら、夫は医者で、自分には特にスキルがないから。別れたら、確実に生活水準が下がってしまうからです。

 だから、女性が自力で稼ぐスキルを持っておくことの重要性が薄れるわけではありません。夫と別れることで大きな損害を蒙る状態では、離婚したくても我慢するしかないのです。


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