離婚の判例:財産分与と退職金

離婚の判例集

 夫も定年近く、退職金が間もなく手に入るという状況。あなたなら、どうしますか?
 無事退職して、お金が入ってきてから離婚を申し立てますか? それとも、老後の貴重な時間を一刻も早く自由に使えるようにするために、前倒しで離婚しますか?

 あなたの夫がまだ若く、例えば入社三年目で、あと二十年後に退職金がもらえるだろう、という状況では、当然、離婚しても退職金の分は計算に入りません。しかし、もう勤続三十年、退職は五年後、といった状況では、退職金が気になってきます。
 将来受給する退職金は、離婚時の財産分与の対象となります。中間利息を控除して生産対象として算出し、即時の支払いが命じられる場合もあるのです。だから、ある意味、無理に待たずに離婚できます。

 いずれにせよ、私、蓮沼としては、前倒しの離婚をお勧めします。残念ながら退職金の分割は、算定方法がどうもきれいに統一されておらず、妻側の利益が十分図られているとはいえない面もあるのですが、この世で何より貴重なものは「時間」です。嫌いな夫と同居を続ける苦痛より、離婚して自由な時間をもつほうが、ずっと好ましいと思いませんか?

すぐ受け取る代わりに利息が間引かれたケース

 昭和48年に結婚し、翌年には長男が生まれた夫婦のケースです。
 平成元年頃には折り合いが悪くなり、平成7年5月に妻は、家族と暮らしていたマンションを出て実家に帰り、以後、別居することになりました。

 夫は昭和44年に大学を卒業し、他の会社で経験を積んでから、昭和58年に今の会社に入社しました。そして平成17年には定年退職の予定ですが、その時点で予想される退職金の額は929万円となります。
 一方、妻はパートで働いています。

 夫は妻に対して、離婚と財産分与の精算金の支払いを求める訴訟を起こしました。妻は、離婚については争わず、夫に対して財産分与の精算金の支払いを求めました。
 この裁判では、共有になっているマンションやその他の不動産、ゴルフ会員権などの財産分与も争点となりましたが、退職金については、以下の通りとなりました。

「いわゆる退職金には賃金の後払いとしての性格があることは否定できず、夫が取得する退職金には妻が夫婦としての共同生活を営んでいた際の貢献が反映されているとみるべきであって、退職金自体が清算的財産分与の対象となることは明らかというべきである。問題は、将来受け取るべき退職金が生産の対象となるか否かであるが、将来退職金を受け取れる蓋然性が高い場合には、将来受給するであろう退職金のうち、夫婦の婚姻機関に対応する分を算出し、これを現在の額に引き直した上、清算の対象とすることができると解すべきである」

 夫の退職時までの勤務期間総数は271ヶ月、そのうち実質的な婚姻期間、つまり今の会社に入社した昭和58年3月から妻が別居を始めた平成7年5月までに対応する期間は147ヶ月となります。
 中間利息、つまり法定利率年5パーセントを複利計算で控除して、現在の額に引き直し、その5割に相当する額が妻の分ということになります。
 計算式にすると、

 929万円×147÷271×0.74621540(6年のライプニッツ係数)×0.5=188万円

 となります。
 6年後の退職を見越して、先に、もらってもいない退職金の中から取り分を寄越せ、というお話なので、夫にとってはかなり不利です。しかし、その不利な分を考慮に入れて、法定利率年5パーセントを控除して金額決定をしています。また、これは夫の昇給を計算に入れていません。

 また、結果として夫には588万円の清算金の支払いが命じられることになりましたが、その支払いを担保するため、夫に分与することとしたマンションに抵当権を設定させることを命じてもいます。

支払い時期は退職金の受給時期としたケース

 もう一例、見てみましょう。

 昭和56年頃に結婚し、57年に長女、59年に次女が生まれた夫婦です。
 夫は昭和48年から公務員に採用され、以後は税務職員として勤務してきました。
 それが平成8年に別居しました。妻は夫に対して、離婚、慰謝料及び財産分与を求める訴訟を提起しました。なお、夫の退職予定は8年後です。

 控訴審では、退職金と年金の財産分与が争点となりました。

(1) 夫が、今、自己都合によって退職した場合に受給できる退職手当金は1632万円で、そのうち別居時までに妻との婚姻期間である15年だけが妻の協力を得て勤務していた期間であるから、その退職手当額のうち右婚姻期間分に対応する額である907万円の範囲で財産分与算定の基礎財産となる。
(2) しかし、夫への退職手当給付は、夫の退職時になされるものであるから、支給制限事由の存在、将来退職したときに受給する退職手当を離婚時に現実に清算させることとしたときには、夫にその支払いのための資金調達の不利益を強いることにもなりかねないことも勘案すると、妻に対する夫の退職手当に由来する財産分与金の支払いは、夫が将来退職手当を受給したときと解するのが相当である。
(3) 夫が定年である60歳まで勤務した場合に受給できる退職手当金は2785万円で、そのうち別居時までに妻との婚姻期間である15年に対応する額は1160万円となる。
(4) 夫が将来定年により受給する退職手当額は、夫が今後8年余り勤務することを前提として初めて受給できるものである上、退職手当を受給できない場合もあり、また、退職手当を受給できる場合でも、退職の事由のいかんによって受給できる退職手当の額に相当な差異があるため、現在の時点において、その存否及び内容が確定しているものとは到底言い難いのであるから、このような夫の将来の勤務を前提にし、しかも、その存否及び内容も不確定な夫の定年時の退職手当受給額を、現存する積極財産として、財産分与算定の基礎財産とすることはできない。
(5) もっとも、夫が将来定年により受給する退職手当額についても、妻が夫と婚姻して別居するまでの間の勤務が含まれ、右勤務の間に妻としての協力があったから、夫が将来定年退職した時に受給できる退職手当額のうち妻との別居までの婚姻期間である15年に対応する額1160万円は、夫が現在自己都合で退職したときに受給できる退職手当額のうち右婚姻期間に対応する額である907万円に比べて増額となる関係にあるので、右のことは民法七六六条三項の「その他一切の事情」として、考慮する。

 裁判所は、夫が将来退職共済年金を受給できることも「その他一切の事情」として考慮し、結果として夫は妻に対して「国家公務員退職手当法に基づく退職手当の支給を受けたとき、550万円を支払え」と命じました。

 こちらは上の判例と違って、利息がついていません。
 今すぐ公務員をやめた時にもらえる退職金と、あと8年勤務してもらえる分とでは、同じ年数でも金額に違いが出てきます。
 かといって、まだ働いてもいないのに、それを基準に計算するのもどうかということで、裁判所は退職手当の支給を受けたときに財産分与するように命じています。
 また、夫が定年まで勤め上げた場合には、同じ年数分でカウントしてもやや多い分の退職金を取ること、退職共済年金を受給できることをもって、「その他一切の事情」ということで、少しだけ妻の取り分を増やしています。

 ただ、いずれにしても、退職金を満額受け取る前に離婚すると目減りは避けられません。
 今の生活と、後の利益と。
 我慢に値するかどうかは、よく考えておいてください。

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