離婚の判例:浪費家相手の財産分与は迅速に

離婚の判例集

 最悪の夫とは何か? 蓮沼的には、なんといっても暴力を振るう夫です。しかし、これに匹敵するのが浪費家でしょう。これらは離婚界の東西横綱と呼んでも差し支えありません。
 暴力夫との生活は、とにかく婚姻中、危険が付き纏います。うっかり殺されるかもしれませんし、そうでなくても後遺症が残るまで殴られるということもあります。私の知っている女性の中には「雨が降ると古傷が痛む」なんて方もいました。
 ですが、後々まで問題になるという点では、浪費家も負けていません。

 浪費家相手の離婚は、とにかく実りがありません。
 一緒にいればどんどん貧乏になり、別れたら別れたで、慰謝料はおろか、財産分与も受けられません。養育費だってないかもしれません。

 その、最悪の財産分与の事例を以下、ご覧になってください。

破産宣告を受けたらオシマイ

 昭和46年に結婚し、51年に長女、54年には長男が生まれました。
 発覚するのが遅すぎたと思うのですが、61年、ようやく夫がギャンブルで大金を使っていることがわかったのです。当然、いい顔をする妻などいません。
 昭和62年、妻は離婚、慰謝料、財産分与を請求する訴訟を起こしました。63年11月には、慰謝料500万円財産分与1000万円の支払いを命じる判決が下され、12月14日に確定しました。

 しかし、ここで安心してはいけないのです。浪費家は、約束なんかすぐ忘れます。
 この妻も、対策をしなかったわけではありません。昭和62年10月の離婚訴訟に先立って、夫所有の不動産に対して、財産分与1000万円、慰謝料2000万円を被保全権利とする仮差押命令を得ておいたのです。これで何かあっても差し押さえることができるはず、でした。
 夫も、昭和63年3月に、仮差押請求金額を供託して、仮差押執行取消決定を得ました。

 ところが、昭和63年8月に、夫は自己破産の申し立てをしていました。
 それが平成元年1月17日に破産宣告を受けました。

 妻は破産管財人に対して、供託金3000万円のうち、1000万円または3分の1の共有持分は破産者の財産ではなく、妻自身の財産であると主張して、1000万円の支払いを求める訴訟を起こしました。

 しかし……

 一審(岐阜地裁)は妻の請求を棄却しました。

「妻は、前訴において、夫に対し夫の財産を現物分割によりその財産の一部を取得する方法によらないで、あえて夫に対し一定の債権を取得する方法によって財産分与を求め、その趣旨に従った判決を得たのであり、その結果前訴判決により妻は夫に対し金1000万円の債権を取得したにとどまるものであるから、前訴判決をもって直ちに妻が本件供託金のうちの1000万円を取得し、または本件供託金に対する3分の1の準共有持分を取得したということはできない」

 現物をもらったのでなく、債権をもらっただけじゃないか、と。

「前訴判決が夫が妻に対し慰謝料500万円の支払を命じるとともに右のとおりの財産分与を命じていることからすると、右財産分与の趣旨は、夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分配し、離婚後における妻の生活維持に資するものとして分与されたものということができるから、右財産分与金の中には、離婚後の妻の扶養料も含まれていることも否定できないが、前訴判決上、右財産分与金のうちこれと実質上の共同財産の清算分配金とは明確に区別して定められていないのみならず、夫婦が離婚した後は相互に扶養義務がないことからすると、右財産分与金に含まれている離婚後の扶養料が破産法四七条九号の財団債権に含まれるとは解し難いから、妻は破産管財人に対し右財産分与金を財団債権として破産法所定の配当手続によらないで直接請求することはできない

 最高裁まで争いましたが、判決は覆りませんでした。

「離婚における財産分与として金銭の支払を命ずる裁判が確定し、その後に分与者が破産した場合において、右財産分与金の支払を目的とする再建は破産債権であって、分与の相手方は、右債権の履行を取戻権の行使として破産管財人に請求することはできないと解するのが相当である。けだし、離婚における財産分与は、分与者に属する財産を相手方に給付するものであるから、金銭の支払を内容とする財産分与を命ずる裁判が確定したとしても、分与の相手方は当該金銭の支払を求める債権を取得するにすぎず、右債権の額に相当する金員が分与の相手方に当然に帰属するものではないからである」

 要は、破産してしまったらもう遅い、債権だから破産法の手続きに従って、配当を待ちなさいということです。
 これだから浪費家はまずいのです。

 こういうケースでは、妻が仮に夫所有の不動産の全部または一部を分与するように要求し、財産分与の判決が確定したら、すぐに移転登記をすることです。判決確定の時点で、夫と妻の間では、その不動産は妻に帰属するといえるのですが、移転登記を得ていないと、破産管財人に取戻権を主張できないことになります。

 浪費家相手に債権、つまり「約束」なんかしても無駄です。
 一にも二にも現物。まず取っておく!
 これが大原則です。

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