離婚の判例:財産分与もやりすぎはNG

離婚の判例集

 離婚は戦争です。
 どうせ二度と付き合うつもりもない、なら奪える限りのものを奪ってやろう。そう考えるのも無理はありません。

 しかし、法律は紛争を嫌います。
 復讐を容認するくらいなら法律なんていりません。勝手に殺しあって奪い合えばいいのです。ただ、それでは社会全体の利益、効率性が大きく損なわれることになります。取引や契約が守られない世界では、誰も約束なんかせず、極端なことをいえば、みんな自衛しながら自給自足で生きるしかありません。
 だから、極端に不公平な取り決めをした場合には法律も守ってくれないことがあるのです。

新しい女に夢中になったがゆえに過大な負担を約束した男

 昭和53年に婚姻届を出した夫婦のケースです。
 夫は、昭和60年に、家庭外の女性と親密な関係になりました。そして、妻に離婚を求めるようになりました。
 妻は、夫が家庭外で「女を作った」ことに気付いていませんでしたし、離婚するつもりもありませんでした。こうなると、夫としても本当のことは言えません。他に付き合っている女性がいるだなんて、言うだけ損です。といって妻が同意するはずもなく。
 こうなったらとことんまで条件を妻に有利なものにするしかありませんでした。結局、マンションも預貯金も手放すとしたのです。具体的には……

  • 今後23年間にわたって住宅ローンの金額として毎月6万円を支払う
  • 毎月給料からローンの金額を控除した残額の半額を支払う
  • 毎年ボーナスから20万円を控除した残額を支払う
  • 貸付信託金と普通預金の合計534万718円を給付
  • 自宅マンションを引き渡す

 大盤振る舞いですね。
 しかし、こんな無茶苦茶な条件、実現できるはずもありません。

 夫婦は60年の11月に離婚し、夫は61年1月に女性と再婚しました。
 その後、元夫は当然ながら、新生活のためにお金がかかることもあってでしょうが、給料の半分を支払うという約束を、ほとんど守りませんでした

 それで元妻は、契約に基づいて夫に支払いを求める訴訟を起こしたのです。

 東京地裁は妻の請求全額を認めました。
 しかし、控訴審では、妻の請求の一部を権利濫用として棄却したのです。

「妻は現在は自活していける状況にあると認められること、夫と妻の収入と家族数、住居費の要否等からみた必要生活費とが著しく均衡を失している状態にあること、妻は離婚に当たり既に夫から本件マンション及び預貯金354万円余の給付を受けていること、本件マンションは妻の住居として使用されていて、売却は予定されていないにしても、本件契約時でも2000万円を超える価値を有し、現在ではそれが4500万円近くに値上がりしていること、夫が妻に対して本件契約に基づく金銭給付を開始し始めた昭和60年10月から本件口頭弁論終結直前の平成2年4月までに夫が本件契約に基づいて妻に支払うべき給料分及び賞与分は、右契約時の給料及び賞与の額を基礎として計算しても、給料分が月8万円の55か月分440万円、賞与分が年132万円の4年分528万円で、その合計は約1000万円に達することに照らすと、妻の本訴請求中平成2年5月以降も本件契約に基づき給料分及び賞与分の支払いを求める部分は、権利の濫用に当たり許されないものと解するのが相当である」

 当事者の同意に基づく離婚給付でも、あまりに不公平なものについては、こうして裁判所が棄却することもあるのです。
 私、蓮沼も、基本的には女性が有利な離婚をできるようにお手伝いする立場ですが、その際にはなるべく事前情報の収集をお願いしています。非現実的な要求は、その場では押し通しても、結局は実現しないものだからです。

ヤブヘビになった財産分与請求

 公平性が保たれないとなれば、裁判所は大鉈を振るいます。
 場合によってはヤブヘビになることもあるのです。

 昭和36年に婚姻した夫婦のケースです。
 昭和37年に長女、43年に長男が生まれました。ですが、昭和60年に、妻は子供を連れて別居しました。この時、彼女は自己名義のゴルフ会員権証書、債権など合計3610万円相当を持ち出しました。その上で妻は、離婚等を求める調停を申し立てましたが、成立しそうになかったので、昭和61年に取り下げました。
 その上で、夫に対して離婚、財産分与、慰謝料の支払いを求める訴訟を提起したのです。

 一審は、妻の勝訴といっていい内容でした。夫に対して債権の財産分与を命じ、離婚を認容したのです。
 しかし控訴審では、財産分与がひっくり返ります。

「婚姻中の双方の生活状態、特に、妻が夫の特有財産及び夫婦共有財産の維持管理に当たって貢献を果たしているものの、ゴルフ等の遊興に多額の支出をしていて、夫婦財産の形成及び増加にさほどの貢献をしていないこと、夫婦共有財産形成には夫の特有財産が大きく貢献していること、別居後の双方の住居その他の生活状態、特に、別居中の生活費は双方でそれぞれ負担したほか、長男の養育費も妻が負担したこと財産分与の対象としてはいないが、妻が本件以外にも夫婦共有財産とみなすべき財産を所持している可能性が疑われること等本件の諸事情を考慮すると、財産分与の対象となる金額の約3割6分に相当する2510万円を妻に分与し、その余を夫に分与するのが相当である」

 つまり、妻は夫婦共有財産の形成にあまり寄与していないのではないか。ゴルフ会員権を持っているところ、また多くの宝石類を所持していることから、遊んでばかりいたのではないか。それから「本件以外にも夫婦共有財産とみなすべき財産を所持している可能性が疑われること」と述べられていますが、要するにヘソクリを持っているはずだと裁判所にもバレていること。
 こうしたことから、妻の側から財産分与を申し立てたのにもかかわらず、判決としては、1100万円相当の財産分与を、妻から夫にするようにと命じられる結果になったのです。具体的には、妻がゴルフ会員権や宝石類、それに債権のうち100万円分だけ妻の手元に残し、あとは夫に渡さなければならなくなりました。

 あまり強引なやり方をすると、しっぺ返しを食らうということですね。

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