離婚の判例:破綻後の不貞行為

離婚の判例集

 夫婦には守操義務がありますが、不貞行為として慰謝料が発生するのは、夫婦関係が破綻していない状態に限られます。
 つまり、

「妻とはもう、やっていけない。離婚するつもりなんだ」

 と言われて関係をもった場合、それが事実とすれば、その女性は婚姻破綻後に性交渉をもったことになり、不法行為の責任を負わないとされます。

 ただ、まぁ……
 きちんと離婚する前に、そういう関係になるような男性がオススメできるかというと、それはそれで別の問題がある気がしますが。
 私、蓮沼としては、そういう相談を受けた場合には「絶対にやめておくべき」としか言えません。筋道を通せない人と交際するメリットなどないからです。

破綻後の関係なら慰謝料は発生しない

 昭和42年に婚姻届を出し、43年には長女が、46年には長男が生まれた夫婦のケースです。
 夫婦関係は昭和59年には非常に悪化し、夫は昭和61年夏に、妻と別居する目的で夫婦関係調整の調停申し立てをしましたが、妻は調停期日に出頭しませんでした。それで夫は調停を取り下げました。
 夫はマンションを購入し、手術を受けて退院した直後の昭和62年5月に自宅を出てマンションに転居して、妻との別居を始めました。

 そんな心に隙間風の吹いた男が、スナックに来店してお酒を飲んでいました。
 そこで女性と出会ってしまったのです。彼女は夫から妻とは離婚することになっていると聞かされて、だんだんと親しく付き合うようになりました。62年の夏には肉体関係をもち、10月にはマンションで同棲まで始めてしまいました。更に平成元年には子供を産み、夫も認知しました。

 この不貞行為について、妻は慰謝料として1000万円の支払いを求める訴訟を提起したのです。
 しかし、判例を見るたび思うのですが、不貞行為の慰謝料で1000万円なんて、支払われたことがほとんどありません。他でもとんでもない数字が出てくることが多いのですが、まずその要求は通ることはありません。

 この裁判では、まったくの空振りに終わりました。
 一審では妻の請求を棄却しました。控訴審も事実関係から判断して、妻の訴えを退けました。

「女性と夫が肉体関係をもったのは、昭和62年5月に夫が別居した後のことであり、その当時、既に妻と夫の夫婦関係は破綻し、形骸化していたものと認められるところ、女性は、当初夫から妻とは離婚することになっている旨聞き、その後別居して一人で生活していた夫の話を信じて夫と肉体関係を持ち、同年10月頃から同棲するに至ったものであるから、女性の右行為が妻と夫の婚姻関係を破壊したものとはいえず、妻の権利を違法に侵害したものとは認められない」

 更に最高裁まで、控訴審判決を維持しました。

「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙の婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙との肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となるのは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである」

 つまり、この女性がいてもいなくても、夫婦として二人は終わっていたのだから、この女性が妻の何かを損じたわけではない、とする見解です。
 ただ、慰謝料から逃れることはできても、共同生活によって生活費の心配がなくなった場合には、婚姻費用の減額などが視野に入るので、その点は意識しておいてください。

権利の濫用

 こんなドロドロの話もあります。

 昭和59年1月に婚姻届を出し5月に長女が誕生、61年6月に長男誕生という夫婦のケースです。
 まず、できちゃった結婚からスタートしていますね。

 この夫、もともと「女好き」だったのかもしれません。或いは後述するように、明らかにわざとやっているだけなのかもしれませんが……
 昭和63年10月頃に、女性が経営する居酒屋に来店して、毎週1度は顔を出すようになりました。ですが、平成元年10月から半年ほど、店に立ち寄らなくなりました。この時期、既にまた別の女性と半同棲の生活をしていたからです。
 その間、妻はこの居酒屋に毎日のように来店して、愚痴をこぼしていました。

「夫婦関係は冷めている。平成3年1月に兄の結婚式が終わったら離婚する」

 平成2年9月の言動です。
 この頃から、先の半同棲の女性との関係が終わったのか、夫はこの居酒屋の女性を口説き始めました。妻とは別れると言って、9月中に肉体関係を持つに至りました。
 更に翌月、妻が離婚を承諾したといって女性に結婚の申し込みをして、女性もこれを受け入れました。

 ところが、年末に二人の関係が発覚すると、妻は女性に500万円の慰謝料を請求しました。
 しかも、夫も彼女に支払いをするよう要求し、女性が拒否すると、首を絞め、お腹を拳で殴るという暴行を加えたのです。
 その後も夫婦揃って女性に嫌がらせをし続け、夫が女性に傷を負わせて、罰金5万円の刑に処せられるに至りました。

 もう、この時点でメチャクチャですが、あくまで女性が慰謝料を払わないので、妻は訴訟を提起しました。

 一審は、妻の請求を棄却しました。
 控訴審では、どういうわけか女性に100万円の慰謝料及び10万円の弁護士費用の支払いを命じました。
 最高裁では、女性の敗訴の部分を取り消して、一審判決を維持しました。

「女性は、夫から婚姻を申し込まれ、これを前提に平成2年9月20日から同年11月末頃までの間肉体関係を持ったものであるところ、女性がその当時夫と将来婚姻することができるものと考えたのは、同元年10月頃から頻繁に女性の経営する居酒屋に客として来るようになった妻が女性に対し、夫が他の女性と同棲していることなど夫婦関係についての愚痴をこぼし、同2年9月初め頃、夫との夫婦仲は冷めており、同3年1月には離婚するつもりである旨話したことが原因を成している上、妻は、同2年12月1日に夫と女性との右の関係を知るや、女性に対し、慰謝料として500万円を支払うよう要求し、その後は、単に口頭で支払い要求をするにとどまらず、同月3日から4日にかけての夫の暴力による女性に対する500万円の要求行為を利用し、同月6日頃及び9日頃には、女性の経営する居酒屋において、単独で又は夫と共に嫌がらせをして500万円を要求したが、女性がその要求に応じなかったため、本件訴訟を提起したというのであり、これらの事情を総合して勘案するときは、仮に妻が女性に対してなにがしかの損害賠償請求権を有するとしても、これを行使することは、信義誠実の原則に反し権利の濫用として許されない」

 ……客観的にみて、明らかにこれは「罠」ですからね。

 わざと夫に口説かせて、慰謝料を分捕ってやろうという作戦だったのでしょう。ことが明るみに出た途端、夫が妻の味方になって暴力まで振るっているのですから、常識的に考えて、そうとしか考えられません。
 法律に無知な女性を引っかけてやろうと、甘く見ていたのでしょう。

 いずれにせよ、誠実でない男性とお付き合いするのは、お勧めできません。

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