離婚の判例:別居期間の判断

離婚の判例集

 別居によって婚姻の実態がなくなると、離婚しやすくなります。しかも、有責配偶者、たとえば不貞行為(浮気)をした側からの訴えでも、認められることがあります。
 ただ、その場合のハードルは、思った以上に高いという認識も持つべきです。

有責配偶者からの離婚請求が棄却された事例

 昭和57年から平成元年にかけて争われた裁判では、8年間に渡る別居期間がある有責配偶者からの離婚請求が認められませんでした。

 この夫婦の例では、昭和28年頃から同棲を始めて、昭和30年に婚姻届を出しました。それから10年間にわたって4人の子宝に恵まれました。どういう事情によったのかは不明ながら、昭和44年頃からは自宅近くにアパートを借りてそこで生活し、49年頃にはまた、家族との同居に戻りました。
 ところが、昭和51年頃から、夫は愛人と関係を持ち始めました。二年後には、愛人は夫の家の一部屋を賃借して暮らすようになり、昭和56年からはほぼ同棲状態になりました。
 それで昭和57年、夫から離婚を請求したのです。

 横浜地裁では、この夫の請求を認めました。
 婚姻関係は完全に破綻しており、その原因は夫婦両方にあると判断したのです。

 ですが東京高裁はこれを棄却しました。
 夫は有責配偶者であり、婚姻が破綻しているにしても、その原因は主として夫にある、ゆえに夫からの請求は認められないとする見解でした。

 更にこの裁判は、最高裁にまでもつれこみます。
 最高裁もこの請求を棄却しました。

「民法七七○条一項五号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら又は主として責任のある一方の当事者からされた場合であっても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないというべきである」

 つまり、有責配偶者、この場合は愛人と勝手に同居を始めた夫の側からの離婚請求だったとしても、充分長い間別居していて、かつ子供もそれなりに育っており(或いは最初からいなくてもいい)、捨てられる側の妻が貧乏生活を強いられるなどの、あからさまに不当な扱いを受けるのでなければ、離婚請求は認めてもいいよ、と言っているのです。
 しかし……

「原審の口頭弁論終結時まで八年余であり、双方の年齢や同居期間を考慮すると、別居期間が相当の長期間に及んでいるものということはできず、その他本件離婚請求を認容すべき特段の事情も見当たらないから、本訴請求は、有責配偶者からの請求として、これを棄却すべきものである」

 この夫婦の場合、昭和28年から44年まで同居していました。その後、49年に家に戻ってきて、51年からまた愛人と暮らし始めました。同居期間は18年です。
 愛人との生活はというと、昭和51年からカウントして57年までですから、8年弱でしょうか。

 この期間を比較して、最高裁は「別居期間が短い」と判断したのです。
 しかし、これは鵜呑みにできるものではありません。恐らくですが、夫の側の不実な態度が、大きく心象に影響したとみられるのです。
 私、蓮沼も、よく「良心的に行動するように」とアドバイスします。配偶者をぞんざいに扱ったという事実があると、どうしてもこういう場合に不利になるのです。

有責配偶者からの離婚請求が認められた事例

 別のケースも見てみましょう。
 同じく別居期間は8年ほどですが、こちらは有責配偶者からの離婚請求が通っています。
 こちらは昭和62年から平成2年まで争われた裁判で、やはり最高裁までもつれこんでいます。

 昭和33年に結婚し、それから二人の子供を得ました。
 昭和36年から夫は独立して商売を始め、妻はその手伝いをしていたのですが、仕事上の意見の対立があって、口論が絶えなかったようです。それで昭和44年頃に、妻は仕事のサポートをやめてしまいました。

 昭和56年になって、夫は「一人になってしばらく考えたい、疲れた」と言って別居し始めました。それから3ヶ月ほどは週に2日くらい自宅に帰っていましたが、それもやめてしまいました。
 でも、実は夫には、別居前から愛人がいたのです。一時的に、その愛人と同居もしていましたが、結局はそちらとも別れました。そして、自分の住んでいる場所は、妻はもちろん、子供達にも知らせませんでした。

 一方、別居中も、この夫は妻に生活費を渡していました。昭和61年まではそうしていたのですが、妻が夫の名義の不動産に対して処分禁止の仮処分の執行をしたことで、彼は怒って送金をやめてしまいます。
 しかし、婚姻費用分担の調停が成立したので、二年後にはまた、毎月20万円ずつ送金することになりました。
 これで腹を決めてしまったのでしょう。夫は婚姻費用分担の調停が成立する前から、離婚請求をしました。

 東京地裁は、夫が有責配偶者であるとは認めたものの、夫の請求が著しく社会正義に反するような特段の事情はないとして、離婚請求を認めました。
 ですが東京高裁は、8年間の別居期間を、それまでの23年の同居期間と比べて、そこまで長期間に渡るものでもないと考えました。また夫婦の年齢(この時点で夫52歳、妻55歳)を考えると、夫の側の有責配偶者としての責任、それから妻の側が婚姻継続を希望していることを無視できるほどではないとして、夫の側の離婚請求を棄却しました。

 しかし、最高裁は離婚請求を認めました。

「別居期間は約八年ではあるが、夫は、別居後においても妻及び子らに対する生活費の負担をし、別居後間もなく不貞の相手方との関係を解消し、更に、離婚を請求するについては、妻に対して財産関係の清算についての具体的で相応の誠意があると認められる提案をしており、他方、妻は、夫との婚姻関係の継続を希望しているとしながら、別居から五年余を経た頃に夫名義の不動産に処分禁止の仮処分を執行するに至っており、また、成年に達した子らも離婚については婚姻当事者たる妻の意思に任せる意向であるというのである。そうすると、本件においては、他に格別の事情の認められない限り、別居期間の経過に伴い、当事者双方についての諸事情が変容し、これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化したことが窺われるのである」

 別居による離婚は、期間が長い、短いというだけでは判断ができない、というのです。
 別々に暮らしている期間が長いから、じゃあ離婚してもいいよという話ではなく、長期間の別居によって、夫婦としての実態がなく、意味をなさなくなっているという状況が必要だという論理です。

 この場合、妻は大きな失態を犯しています。
 夫名義の不動産に対して、処分禁止の仮処分の執行をしました。これは別居から5年後のことです。夫はこれを、悪意ある行動と受け取りました。自分の財産なのに、処分禁止とはどういうことだという話です。
 有責配偶者が離婚を申し立てて認められないのは、もう一方の配偶者が善意で行動しており、相手が家庭に戻ってくるのを待ってくれているから、つまり妻を裏切った夫の側は家庭を破綻させたけれども、妻の側には破綻がないからなのです。

 しかしこの件では、妻は具体的な行動によって夫と対立した「痕跡」を残してしまいました。
 一方の夫はというと、心象がよくなる行動をしてきています。妻が余計なことをするまでは、ずっと生活費も送ってきました。不倫相手とも別れています。確かに不貞行為があったので、夫は有責配偶者ですが、婚姻の破綻という点でいうなら、妻にも相応の行動があったとみられてしまったのでしょう。

 別居が離婚の理由となるのは、婚姻が破綻しているからです。
 婚姻期間の長さも、別居期間の長さも考慮されますが(3~5年が目安とはいいます)、単純にそれだけでは決まりません。
 家庭が家庭として機能していないのはなぜか、また機能させなかったのは誰なのか、ということも問われるのです。

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